71話:異動
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ンになれたのに』とぼやいてましたよ。私は詳しくないんですが、そんなにすごい人物なんですか?あの親父にとっては最大の誉め言葉でしたから」
「事業家としても投資家としても、この宇宙で当代屈指だろうな。その手腕には敵国人でありながら賞賛せざるを得えんところがある。元経営者志望の立場からすると、現在の帝国も同盟も銀河連邦の時代と比較すれば衰退し切った状況だ。彼がしたことは事前に需要を確定させてから、展開しているRC社の事業エリアにその供給力を投資する事で用意させた。
一種の計画経済だが、経済は生き物だ。衰弱し切っていては自力ではうまく動けないからこそ、うまく動けるようになるまではどう動けばよいかの脚本を用意したわけだな。教育と医療もほぼ無料で受けられるらしいし、同盟軍の下級兵士よりも待遇はマシかもしれん。笑えない冗談だが......」
「歴史的に見ても。10億人ちかい人間にそんな環境を用意できた人物はいない。それだけでも偉業なのに、戦争にも長けているとなるとね。本来、内政に強い人物は軍事には疎かったりするものなんですが......」
「まあ、彼が政府系の貴族に生まれなかったことを、むしろ喜ぶべきかもしれん。帝国全土で彼が動いていれば国力差は突き放されていたかもしれんからな」
「フェザーンに生まれてくれていれば、事業家として大成して、同盟も恩恵が受けられたでしょうし、なかなかうまくいかないものですね」
先輩は意図的に言葉にしなかったが、自由惑星同盟にとって危険な人物である以上に、民主制にとって危険な存在だろう。民衆があれこれ考えなくても、努力すれば一定以上の収入が得られ、教育も医療も無料。そんなことが宇宙規模で実現できるなら、議論するばかりで、現状が何も変わらない今の同盟政府など市民たちから見れば、愚か者の集まりとしか映らないだろう。
父のビジネスパートナーであったとは言え、敵国人の子供にも配慮を欠かさない人物を、『民主制にとって危険』という理由で憎むことが、私にできるのだろうか?
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