第九話 枕カバーを見るのが辛い
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卿が居なくなったと報告を受けた。それで慌てて探しに来たんだ」
「驚いたな、ここでも警護しているのか?」
「当たり前だ!」
何で俺に当たるかなあ。悪いのは俺じゃないだろう。
「見ろ」
キスリングがベランダの方を指さした。なんか大勢の人が居る。
「あれは?」
「憲兵隊と情報部だ。卿を見失って蒼くなって捜していたんだ。当の本人は溜息を吐きながら中庭をうろうろしているしな」
「……怒っているのか?」
「ああ、ようやく見つけたんだが近衛の連中は彼らが卿に近付くのを許さないんだ。邪魔をするなと言ってな。それで俺が来た」
後で近衛兵に礼を言っておこう。
「……手を振った方が良いかな?」
「好きにしろ」
手を振るとちょっとの間が有って躊躇いがちに手を振ってくれた。良いねえ、こういうのは和むよ。俺達は仲良しだ。近衛兵とは握手だな。スキンシップは大切だ。
「気を付けろ」
「……」
「こういう人混みの方が危ないんだ。一人くらい居なくなっても分からない、攫おうと思えば簡単に出来る」
「私を攫う人間が居ると?」
キスリングが頷いた。
「可能性は有る、上からはそう言われている」
誰が俺を攫うんだ? 門閥貴族? 目的は俺を痛める為? うんざりだな。ラインハルトは……、それは無いな。大丈夫。
「気を付けるよ。そろそろ帰る。送ってくれるだろう?」
「甘えるな」
「いや、相談したい事が有るんだ」
「……」
「内密にね」
「……分かった」
何で溜息を吐くんだ? 俺達は親友だろう?
帝国暦487年 9月 1日 オーディン 新無憂宮 翠玉(すいぎょく)の間 エーレンベルク元帥
報告を受けて皆の元に向かうと司令長官が話しかけてきた。
「見つかったのかな?」
「見つかった、中庭に居たそうだ」
私が答えると司令長官がほっとした様な表情を浮かべた。
「相変わらず人騒がせな男だ」
「本人には悪気が無いから始末が悪い」
統帥本部総長、司令長官がぼやいている。全く同感だ、賛成する。あれは自分が加害者だという意識が無い。自分は被害者だと思っている。
「中庭で何をしていたのだ? 美人と逢引か?」
「うろうろと歩いていたそうだ。溜息を吐きながらな」
私の言葉に統帥本部総長と司令長官が顔を見合わせた。
「嫌な予感がする、私だけかな?」
「いや、私も悪寒がする」
「同感だ」
八月が終わったばかりだというのに首筋が寒い、帝国軍三長官が悪い予感に襲われている。
気のせいだと笑い飛ばす事は出来ない。あの若造が溜息を吐きながら庭を徘徊していた。次のあれにはとんでもない破壊力が有りそうな気がする。シャンパンを一口飲んだが気の抜けたサイダーのような感じがした。最近抜け毛が酷い。あれの所為だ。
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