301部分:第二十話 太陽に栄えあれその十三
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第二十話 太陽に栄えあれその十三
「あの方の様にだ」
「御心は女性だというのに」
「御身体は男性なのですか」
「それが悪戯なのですか」
「神の悪戯」
「それは悪魔の悪戯よりも残酷だ」
悪魔という言葉も出た。
「神は悪意がないというが」
「それは確かでは」
「神はそうしたことはされないです」
「悪意は悪魔のものです」
これはキリスト教徒の考えだ。ただしグノーシス主義は創造主は悪意のある存在だとしている。救世主が人を救うとしているのだ。
プロテスタントの彼等はそう考えていた。しかしだった。
「しかしそれでもなのですか」
「神のその悪戯はですか」
「残酷なものですか」
「そうなのですか」
「そうだ。非常に残酷なものだ」
また言うビスマルクだった。
「悪意がないからといって残酷ではないとは限らないのだ。むしろ」
「むしろですか」
「悪意がない方がですか」
「残酷なのですか」
「人に悪意だけがあれば」
ビスマルクは人間そのものについても話した。
「そして善意だけならばだ」
「そうしただけならばですか」
「そうしたものならば」
「どうなのでしょうか」
「人も人の世もどれだけ単純だったのか」
ビスマルクらしい言葉だった。それも実に。
「何もかもが楽に語れ対処できる」
「では悪意だけが人を不幸にするのではない」
「善意もまたですか」
「それが災いになりますか」
「今のバイエルン王の様に」
「その通りだ。あの方は悪意を受けられることは少ない」
それはだというのだ。
「どの者もあの方に敬意を払わざるを得ず忠誠を誓わずにはいられないのだ」
「それは閣下もですね」
「プロイセン宰相としてもですか」
「それでもですか」
「そうだ。私は一度しか御会いしていない」
それも王になる前にだ。しかしそれでもなのだった。
「だが、だ」
「それでもですか」
「あの方には敬意を払われているのですね」
「そうなのですね」
「そうだ。あの方は真に素晴しい方だ」
目にだ。確かな敬愛のものを見せていた。プロイセンにのみ忠誠を誓う筈の彼もだ。王に対して敬愛の念をはっきりと感じていたのである。
その彼がだ。王のことを語るのだった。
「どうして悪意なぞ抱けようか」
「善意が人を不幸にする」
「それもまたあるのですか」
「悪意だけでなく」
「だから人は難しいのだ」
ビスマルクならではの言葉だった。
「そして人の世もだ」
「ではこの場合はどうするべきか、ですね」
「バイエルン王を幸せにするのは」
「それは何でしょうか」
「あの方を理解する方が多くなることだ」
それがだというのだ。
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