暁 〜小説投稿サイト〜
緑の楽園
第五章
第51話 兵舎
[4/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
だけどね。城の訓練場に歴代優勝者リストがあるからさ」
「アホか……そんなのいちいち見るわけないだろ……」



 ***



 おそらく最初は、トントンと軽く突かれていたのだと思う。
 だが、俺の眠りが意外と深く、気づかなかったのだろう。
 意識は、ドンドンとマズルの部分で強く叩かれているところから開始された。

「……ん……クロか? どうした」
「リク、起きろ」
「ええ……? まだ……朝になってないだろ……」
「おそらく非常事態だ。起きろ」
「……んー、そうか、非常……事態……か…………って、えっ?」

 慌てて上半身を起こそうとする。
 が、カイルが乗っかっていて上体が上がらなかったので、彼も揺さぶって起こす。

「……ん? どうしたの兄ちゃん」
「非常事態らしいぞ、起きてくれ」

 そしてクロに問いただす。

「クロ、何かあったのか?」
「空気がおかしい。臭いが変だ」
「え? あ、そう言われてみれば……」

 少し、焦げ臭いような気が……しないでもない。

 だが、ここには調理場があるわけでもないし、今は暖房の季節でもない。
 そんなことがあるのだろうか。

 部屋の外に出てみた。
 一見、何事もないようだが。

「兄ちゃん! あっち!」
「……!」

 廊下の先の、階段を見た。
 人ではなく、煙が登ってくるのが見えた。

「火事か……!」

 兵舎は古い木造二階建てだ。火が起これば簡単に全焼するだろう。
 この二階には三十人くらいが現在進行形で寝ている。まずい。

「クロ! 俺は全員を起こして避難させないといけないから、お前は先に外に――」
「断る」
「……じゃあお前は吠えてみんなに知らせてくれ」
「わかった」

「カイルは外で待ってろ! まだ階段は使えると思う」
「やだ。手伝う」
「……じゃあお前は俺と反対側から起こしていってくれ」
「わかった!」

 言うことを聞かない一匹と一人を説得する時間はない。おそらく一刻一秒を争う。
 すぐに全員たたき起こさなければ。

 階段から一番近い部屋の扉を開こうとした。
 が、開かない。古い兵舎なのに、鍵だけはしっかりかかっている。
 乱暴にドアを叩く。

「起きてください! 火事です! 起きて!」

 カイルも通路の反対側の部屋のドアを叩いていく。
 クロも大きな咆哮をあげ、兵士を起こしにかかる。

 俺が叩いていたドアが開き、若い兵士が眠そうに出てきた。

「……どうした? こんな夜中に……って、火事か!」

 起きてきた兵士は、状況を把握すると瞬時に眠気が覚めたようだ。
 すぐに他の部屋のドアを叩いて、起こしにかかる。

 俺も次のドアを叩きながら
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ