アインクラッド 後編
還魂の喚び声 2
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、美しい黒髪をポニーテールに結わえた、花が咲くように笑う少女だった。交通事故によって手に入れた決して色あせない記憶は、過去のことを今目の前で起きているように投影してみせるが、景色も表情も、匂いも手触りも完璧に思い出せるのに、僅かばかりの満足感も与えてはくれなかった。それどころか、思い出せば思い出すほどに、二人から向けられた友情や好意の欠片ほども返せていないという事実が深い悔恨と謝意を湯水の如く湧き出させるのだ。
白に染まった世界が暗転していく。最後、世界の中心にたった一粒残った光が消え去るその瞬間に去来したのは、何とも身勝手なことに自分の名を呼ぶ声だった。
ああ、済まない。済まない。何度言っても尽きることは無い。本当に……
「――マサキ君っ!!」
その声は、燃え尽きた灰燼から再び不死鳥を生み出すようにマサキの精神を震撼させた。これは未練が呼んだ過去の記憶の集合体か、或いは願望が生み出した幻聴か。しかしそう考えるにはその声は余りにも瑞々しく、干からびた喉を撫でる一滴の果汁のように芳醇だった。
「エミ……?」
「マサキ君……よかった、よかったよぉっ……!」
「そんな……嘘だ、何で……!?」
自分でも聞こえないような小さな呟きを聞き取ったのか、涙に震える声が返ってくる。気が付けば、目の前には再び薄暗い通路が見えて、体の麻痺も取れていた。顔を起こすと、うろたえるジュンの足の間から、誰かが手を膝につき肩で息をしていた。肩まで届く黒の髪は振り乱されてボサボサになっていたが、アインクラッドでただ一人、彼女にだけカーディナルが贔屓をしているのではないかと思ってしまうような艶やかさは失われておらず、見間違うはずもなかった。
「間に合った……!」
シルエットの右手で、還魂の聖晶石――去年のクリスマスにマサキが入手し、エミに渡したままになっていた結晶が高く澄んだ音を立てて壊れる。
ぼろぼろと大粒の涙を零し、顔をくしゃくしゃにして泣き笑ったエミの顔を、虹色の残照が柔らかく輝かせた。
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