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ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 後編
還魂の喚び声 2
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……お前、お前――!!!」

 マサキ君、マサキ君と、縋りつくようにマサキを呼ぶエミの声を認識した瞬間、マサキの世界からジュン以外の一切が消え失せ、噴き上がった殺意だけが意識を支配した。
 殺す。殺してやる。純粋な殺意が腕を持ち上げ、おかしそうにけたけた笑う少年の命を刈り取るために振り下ろそうとする。しかし、マサキの身体はそこで止まった。
 動け。動け。何をしている? 目の前の奴を殺せ。それ以外はどうなってもいい。自分が死んだって一向に構いやしない。なのに何故動かない? 何故――

「……あーあ。これじゃ、一から十までボスが言ってたとおりじゃないか」

 ジュンの声色が戻っていることに気がついたのは、マサキが前のめりに倒れた後のことだった。眼球だけを動かして前を見上げると、黒いなめし皮で出来たブーツの横に小さなナイフがカランと音を立てて落ちた。

「挑発で注意を引き付けて、《クイックチェンジ》で麻痺毒を塗ったナイフを取り出して一撃、か。こんな初歩的な手に引っかかってくれるなんてね」

 感情を感じられない平坦なジュンの声と一緒にブーツの底が床を叩く音が降って来る。声が少し遠くなったかと思うとすぐにまた近づいてきて、今度は弾き飛ばした大太刀の黒い波紋が入った切っ先が、ナイフが落ちた反対側に見えた。

「まあ、どんな手だっていいんだけどっ!」

 地面が半分を占める視界から切っ先が消えて、体を貫く感触に襲われた。ソードスキルも使わずに、ただ刃を振り下ろすだけ。それでも装甲のないマサキのHPを削るには十分で、胴体に異物が入ってくる不快感に襲われる度、マサキのHPは確実に減っているだろう。だろうというのは、最早マサキに自分のHPを確認する気力さえなくなって憶測で語っているにすぎないからだ。

「死ね、死ねよ。死んで皆に詫びろよ。そんで、死んだら地獄で皆に殺され続けろ」

 息が上がり、興奮のような喜悦も混じるようになったジュンの言葉を浴びても、マサキは何を喋ろうとも、何をしようとも思わなかった。結局一言も発さぬまま、マサキは目の前が漂白されて初めて自分のHPが尽きたことを知った。
 自分のHPが尽きる時、やっと終われる、とどこかすっきりした気分になるものだと思っていた。事実、マサキは瞼を静かに閉じて胸の内でそう呟いた。しかし考えていたような清々しさはそこにはなく、思おうとすればするほどに湧き出すのは、宇宙空間に一人放り出されたような肌を刺す寒さだった。清々しいわけでも澄み渡っているわけでもなく、ただ何もないだけ。無を透明と言い張ろうとする空しさに呆れたマサキは、全てを投げ出して思考の海を漂った。
 目の前を編集された動画のように様々なシーンが目まぐるしく流れていくが、現れる頻度が突出して多いのは、爽やかな印象の茶髪の青年と
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