70話:葛藤
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は『これで伯に胸を張って会える』と確かに思った。そして首席を報告した際、伯が俺の肩に手を置いて『良くやった!グリューネワルト伯爵夫人もお喜びになろう』と嬉し気に言ったとき、確かに嬉しさを感じた。俺は伯に勝ちたいのか?認められたいのか......。少し考え込んでしまったらしい
「ラインハルト、せっかくの日にお説教染みた話などしてごめんなさいね。ただ、自分とリューデリッツ伯を比べるのは止めたほうが良いと思うの。実績がという話ではなくて......。何と言ったら良いのかしら、ラインハルトは少なくとも自分で幼年学校への進むと決めたでしょう?でも伯の逸話を聞けば聞くほど、進みたかった道が選べず、選ぶしかなかった道で大功を上げられたわ。ただ、それを周囲は喜んでいても、本人が喜んでいる感じがしないの......。
これは、畏れ多い事だけど、陛下からも似た雰囲気を感じるの。だからこそ、伯と陛下は仲が良いのかもしれないわ。祝いの場で話すべきではないと思うけど、2人も不本意だけど周囲はそれを祝福している経験をしたはず。周囲が祝福するほど、心が渇いていく......。そんな人生を2人には歩いてほしくないもの......」
「姉上、ご心配をおかけしました。そう言う事を考えていた訳ではないのです。ただ、おっしゃる通り少し焦っていたかもしれません。焦らずじっくり励むことを心がけます」
口から出た言葉とは裏腹に、俺はある命題を突きつけられていた。リューデリッツ伯は姉上を守れる財力も、影響力も、立場も兼ね備えている。それを得る為には、俺自身も渇きに満ちた道を歩まねばならないのだろうか?もし決断を迫られた時、その道を選べるのだろうか?伯はなぜ、そんな道を選ばれたのか......。いつか聞いてみたい気がした。
「アンネローゼ様のお料理はとても美味しいです。食べ過ぎてしまわぬか、心配になってしまいます」
「あらジーク、お世辞も座学に含まれているのかしら?」
姉上とキルヒアイスの会話が、俺を現実に引き戻してくれた。最近、姉上の屋敷を訪れる淑女の一人となったフリーダ嬢の影響か、姉上もケーキだけでなく料理にも意識を向けだした様だ。今は、姉上の手料理を楽しむことに集中しよう。
「姉上の料理は絶品だからな。お代わりをお願いします」
「あらあら、作り甲斐があると上達が早いとフリーダ嬢がお話になられていたけど、その通りね。来月にはまた新しいレシピを用意しておくことにしましょう」
嬉し気に姉上がほほ笑む。それにしても、唯一絶対の銀河帝国皇帝に即位した人間が、本来望んだ人生ではなかったということなどあり得るのだろうか?片手間の思考では、納得できる答えは出ないだろうが、俺の頭の片隅にいつまでも残る疑問だった。
宇宙歴787年 帝国歴478年 6月中旬
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