第五章
第50話 害虫
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ほんの少しだけ夕焼け色に染まった空の下、地平の手前には、長く広がる塁と城壁が見える。
とうとう地下都市に一番近い城、ミクトラン城の城下町の近くまで来た。
この国、和風と思われる地名もわずかにあるが、圧倒的に洋風の地名が多い。
背景にあるのは、文明崩壊の原因になった戦争だと考えられる。
その戦争においては、当事国以外であっても、一定以上の水準の町はすべて攻撃対象となった。理由は、そうしないと戦争終結後に力を持たれてしまうからだとか。
日本も例外ではなく、全国的に攻撃の対象となり、ほぼ全壊したとされる。
その後の再発展の過程で地名は新しく付け直されていったと思われるのだが、もうそのときには、旧日本人の流れをくむ人の割合は大きくなかったのかもしれない。
さて。
行軍もやっと一段落となる。
ここが終着駅になるのかどうか、それはまだわからない。すべては会談の結果次第だろう。
前方の景色を引き続き眺めていると、壮年の男性が、俺のすぐ横に馬を寄せてきた。
その壮年男性のすぐ後ろには、やや小振りの馬に乗った黒髪短髪の少年、レンがピタリと付いている。
「オオモリ殿は、この城も初めてですね?」
「はい。初めてです」
「この城も道中にあった他の城のように、城下町ごと堀と塁で囲い、外敵から町ごと守れるようになっています。今見えている南側の外堀だけは空堀ですが、城が大きな川に隣接しているため、他の面の外堀や内堀には川の水が引かれ、水堀となっていますよ」
「なるほど……。塁はこれまでの城より高いですよね? いかにも堅そうな感じがします」
「そうですね、国内で最も防御力が高い城の一つでしょう。昔に北の国から攻め込まれたことがありましたが、一か月の包囲に耐えて撃退した実績があります」
初めてこの城に来る俺に対して、詳しく説明してくれているこの壮年男性。歴史学者であり、今回の行軍では従軍記者のようなポジションである。
彼はレンの師匠でもあり、行軍開始以降は基本的にいつも二人一緒にいる。
「毎度毎度教えてくださって助かります。俺も、参加する以上はもっと予習してから来るべきだったんでしょうけど」
頭を掻いてしまう。
レンがニターっとした顔をしているのが、視界の端にぼやけて見えた。ピントはあえて合わせない。
城下町の門の前まで来た。
領主はオドネルという名前だと聞いている。どうやら、門の前に見える小太りの着飾った中年男がそうであるようだ。部下を従えて出迎えに来ていた。
先日の神降臨パーティにも来ていたと聞いたが、あいにく俺はその顔に覚えがない。
城門を先頭で通るのは、もちろん国王である。
俺は城門に近づく前に後方に回り、先頭集団の一番後ろに付く。
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