第五章
第50話 害虫
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た。
「どうしたじゃないでしょ。なんで兄ちゃんだけこんなところに入れられてるの」
「なんか俺はここの領主に嫌われてるみたいでな」
「陛下に言いつけちゃおうか?」
「いやいや、それはまずいぞ」
「なんで?」
「んー、自分で言うのもなんだけど。たぶん陛下は俺のことを気に入ってるよな」
「オレも兄ちゃんのこと気に入ってるよ」
「誰もお前のことは聞いとらんぞ……」
「へへへ」
「まあアレだよ。『俺の扱いが酷いんですけど』とか言いつけたとしよう。あの人ホントに怒るんじゃないのか? 下手したら『あの領主を処分する』とか言いかねない気がするんだが」
「あー、言いそうだね。でも処分されたらまずいの? あ、そうか……まずいんだ」
突然、納得したような表情になった。
この少年は頭の回転がいい。俺の言いたいことがわかったようだ。
「そうなんだよ。明後日に地下都市からの使節団が来て、この城で会談するから。陛下と領主が今揉めることがあると、ちょっとまずいんだよな。
今回の会談は国の行く末にも影響するような大事なものだし、陛下には余計なところに神経を使わずに集中してほしいんだ。だから陛下が気づいていないのであれば、そのままにしておくほうがいいな」
とりあえず、寝るところがなくて困るわけではない。事を大きくする必要はないと判断している。
カイルが心配してくれるのはありがたいが、チクリ作戦は実行しないことが望ましい。
まだ嫌がらせは追加で発生してくるかもしれないが、どうせこの城にいるのは数日間だけだろう。その期間限定で学校でのいじめの対象になると思えばいい。
学校のいじめの場合は、下手すれば卒業するまで毎日続くことになる。それに比べれば遥かにマシだ。
「それより、タケルはどうしてるんだ? カイルと一緒のところに泊まる予定なのかな?」
「うん。城の大部屋で子供たちと一緒の部屋だよ。心配しなくても大丈夫」
「そっか。それは安心だ」
タケルは手枷を付けたままなので、誰かが一緒でないと不便を感じてしまうだろう。
エイミーとカナの逆セクハラコンビと同部屋だと別の心配が生じるが、致命的な問題ではないはずだ。
「まあ、とりあえずだ。俺は別に困っているというわけじゃないんで。ひとまず今日はそのままで。お前は与えられた部屋のほうで寝ろ」
「……わかった」
カイルは首を縦に振ったが、どこか不服そうな顔だ。
いちおう、俺にも少し引っ掛かることはある。
あの領主、俺に嫌がらせをして、万一あとで言いつけられたら自分の身が危険だということは考えなかったのだろうか? という疑問がないわけではないのだ。俺でも考えつくリスクなので、当然頭に浮かぶと思うのだが。
チクられない自信があったのだろうか
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