69話:側近
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同義だと認識しているのだろう。それにずっと目指してきた自治領主の座が、歴史の亡霊どもの手先だと認識した時から、私の中にあった『フェザーン自治領主という地位の輝き』は失われてしまった。手元のティーカップを口元に運び、良質な紅茶の香りを楽しんでから口に含む。
視線を窓に向けると、冬であることを忘れるような、温かな日の光に照らされた庭園が目に入る。私たち夫婦の安全の為の隠遁生活だったが、その期間も一年を越えて妻のお腹にも命が宿った。このまま一生隠遁生活というのもどうかと思うが、この安らぎとゆっくりとした時間の流れに満たされた生活が、自分の身の振り方にもっと選択肢があるのでは?と考えるきっかけにもなった。
「そうですね。正直、自治領主としてフェザーンに戻りたいかという話でしたら、その意思はありませんね。もっとも帝国にとって必要だというなら、話は別ですが......。妻も臨月ですし、もうしばらくはこのまま今の生活を楽しみたいですね。ご配慮いただいたのでしょうが、ここの生活は時間がゆっくり流れている。色々考えるのにちょうど良いと感じていますし......」
「そうですか......。まあ、貴方は『フェザーン人としての生き方の一つの頂き』には既に登頂されたのですから。次は『ワレンコフとしての生き方の頂き』を探してみるのも良いかもしれませんね。候補になり得るなら、RC社の幹部の席はすぐに用意します。それと、フェザーン国籍の投資会社の方は顧問ではいてほしいと思います。貴方の能力は、まだこの宇宙には必要とされるものですし、預金残高がいくら豊富でも、減る一方と言うのは精神的に良くはないでしょうからね......」
思えば共犯者であるリューデリッツ伯と、膨大な資金を動かしながら利益を上げ、そこから報酬を得て、次期自治領主への階段を駆け上がった日々が一番楽しかったように思う。だが、全身全霊をかけて駆け上がりたいと思う頂きを、私はもう一度見つける事が出来るのだろうか?
「伯が私の立場なら、どんな頂きを目指しますか?参考までに聞いておきたいのですが......」
「そうですね。私なら『宇宙統一政体となった帝国の経済面での第一人者』でしょうか?もっとも宇宙統一政体になるには、帝国内部で解決しなければならない問題もあります。私たちの生物としての寿命を考えれば、『宇宙統一政体となった帝国の経済面での第一人者』となりうる人材の育成と、しかるべき立場を用意することになるかもしれませんが......」
伯もティーカップを口元に運び、紅茶の香りを楽しみながら私の問いかけに応えてくれた。『宇宙統一政体となった帝国の経済面での第一人者』か、彼が言わなければただの夢想に思えるが、確かに目指し甲斐のある頂きのひとつだろう。
「帝国と叛乱軍が、停戦、ないし和平する可能
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