291部分:第二十話 太陽に栄えあれその三
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第二十話 太陽に栄えあれその三
「だが。それでもだ」
「陛下から離すのはですか」
「問題があったのですか」
「それもまた」
「そうではないのか」
大公は周りに漏らす。
「陛下はワーグナーを愛されている」
「あの初老の男を!?」
「そうなのですか?」
「ではまさか」
「陛下は」
「そうした意味での愛ではない」
周りが何を考えているのかを察してだった。大公は話した。
「そうではない」
「いつものあの方のそれではなくですか」
「肉体的な愛ではない」
「そちらではありませんか」
「そうだ。また違うのだ」
大公はそれはわかっていた。王が幼い頃より知っているからだ。
「またな」
「ではどうなのでしょうか」
「どうした愛でしょうか」
「陛下のワーグナー氏への愛は」
「それは」
「プラトニック。いや」
大公は言ってから己の言葉を訂正させた。
「違うな。心の愛だ」
「心のですか」
「と、いいますと」
「あの方は心でだ。ワーグナー氏の芸術を愛しておられるのだ」
そうしたものだというのだ。王のワーグナーへの愛は。
「だからこそ即位されてすぐにあの御仁をミュンヘンに呼びだ」
「そしてそのうえで、ですか」
「ああしてですね」
「ワーグナー氏と常に傍に置きたい」
「そういうことですか」
「そうだ。だからなのではないか」
大公は言うのだった。
「陛下はワーグナー氏を」
「そういえばです」
ここで周りの一人が話した。
「その陛下にです」
「どうしたのだ?」
「女性の方がお傍に集っていますが」
「無駄なことだ」
大公はそのことにはすぐにこう述べた。
「陛下に女性か」
「はい、そうです」
「最も縁のないものだ」
こう言うのだった。王に女性という組み合わせはだ。
「そんなことをしてもだ」
「意味はないと」
「そうだ。あの方の周りにはいつも花が集まるが」
そのまま女性という意味である。
「しかしだ」
「それでもですね」
「実際は」
「そうなのだ。御后を迎えなくてはならない」
大公はこのことも話した。
「それでもだ。あの方にはだ」
「女性は縁のないもの」
「興味のないものですね」
「あるとすればエルザ姫だ」
大公もまたワーグナーの歌劇のヒロインの話を出した。
「あの姫だけだ」
「エルザ姫ですか」
「あの方だけがですか」
「エリザベートかも知れないが」
タンホイザーのヒロインの名前も出た。
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