第十五話 中を見るとその八
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「わしは何十もの敵を討ち取ったが」
「合わせて六十はじゃな」
「そのうち本願寺が四十五あった」
それだけあったというのだ。
「皆殿にお見せした」
「笹を咥えさせた首をか」
「それで大名にと言われたが」
「断ったか」
「わしは大名なぞ似合わぬ」
可児は慶次に笑って話した。
「武辺者、不便者だからのう」
「政は出来ぬからか」
「それは遠慮した」
「わしと同じじゃな」
「お主も先の戦では首を何十も挙げたな」
「そうであったな、しかしな」
「お主も殿に言われたな」
「大名はどうかとな。しかしわしもじゃ」
かく言う慶次もというのだ。
「こうしたことはな」
「大名になることはな」
「向いていないと思う」
自分でだ、わかっているというのだ。
「それでじゃ」
「大名になることは断り」
「そしてじゃ」
そのうえでというのだ。
「今ここにおる」
「お主は大不便者であるからのう」
「そうじゃ、お主は不便者じゃがな」
「お主はそうじゃからな」
「だからじゃ、領地を治めねばならぬ大名なぞな」
「到底じゃな」
「似合わぬ、しかも大名は格が出来てじゃ」
それでというのだ、万石取りになればその格が出来てこれまでとは比較にならないまでに色々と出て来るのだ。
それでだ、慶次も言うのだ。
「面倒になる、傾くこともじゃ」
「出来ぬな」
「わしは大名の器でもないし格も嫌じゃ」
「それでじゃな」
「今のままでよい、今のまま好きにじゃ」
「傾いて生きるか」
「そうする、では飲むか」
慶次はあらためて言った。
「酒をな、そういえば近頃じゃ」
「酒のことか」
「堺等で南蛮の酒が売られているそうじゃな」
「南蛮の酒か」
「うむ、葡萄から造る酒じゃが」
「おお、異朝の書であるのう」
可児もそうした酒についてはこう述べた。
「あちらの詩であったか」
「葡萄の美酒夜光の杯とな」
「夜光の杯も売られておるな」
「堺ではな」
南蛮からの舶来品としてだ、当然ながら目が飛び出る程のとんでもない高値で売られている。酒もそれは同じだ。
「そうなっておるが」
「その南蛮の酒、葡萄の酒もか」
「堺では売られておるそうじゃ」
「それは美味いのか」
「美味いそうじゃ」
実際にというのだ。
「これがのう」
「左様か」
「殿は酒が飲めぬが」
慶次は信長、自分達の主の話もした。
「しかし南蛮の菓子には注目されておる」
「おお、殿らしいな」
甘いものが好きな信長らしいとだ、可児も頷いた。
「それは」
「カステラ等という菓子があるそうじゃが」
「そのカステラにか」
「えらく興味をお持ちらしい」
「そうなのか」
「どうやらな」
「南蛮の菓子か」
可児は考える声で述べた
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