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永遠の謎
288部分:第十九話 ヴェーヌス賛歌その十五
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第十九話 ヴェーヌス賛歌その十五

「それはどうしてもだ」
「まして。聞くなと言われれば余計にですね」
「尚更聞かずにはいられない」
「人の心は」
「人の心は複雑で微妙なものだ」
 その人の心をこれまで見てきて知っているからこそ。ワーグナーは言うのだった。その心理の微妙なことを見てだ。作品を創造しているからこそ。
 ワーグナーは今言うのだった。そのことをだ。
「だからだ。エルザは彼の名を聞かずにはいられなかった」
「騎士の名を」
「そして聞いて愛を得られなかったのだ」
「陛下はどうでしょうか」
「若し陛下がその場におられたら」
 そうなればだ。どうかというのだ。
「エルザの立場ならばだ」
「聞かれますか」
「誰でもそうする」
 ワーグナーはそれは王だけではないというのだ。誰もがだというのだ。
「必ずな」
「それでなのですね」
「そうだ、そうする」
 彼は言い切った。
「そうした意味でもか。あの方は」
「幸せを手に入れられないのですか」
「おそらくはそうなる」
 こう話すのだった。
「今回のことも。それにだ」
「それにですか」
「これからもだ。あの方は幸せになれない方なのだろう」
「ではマイスターはどうされますか?」
 ワーグナーはそのことにどうするか。コジマは彼に尋ねた。
「これからは」
「そのことか」
「はい、どうされますか」
「おそらく私はだ」
 ワーグナーは目を光らせた。そのうえでだ。
 コジマにだ。こう話すのだった。
「もう少ししたらここを出ることになる」
「スイスをですか」
「そしてバイエルンに戻ることになる」
「ミュンヘンに」
「その時に陛下に進言させてはもらう」
 政治のことではなくだ。王自身のことについてだというのである。
「私のこの作品のことを通じてだ」
「そうしてそのうえで、ですか」
「あの方に何かあってはならないのだ」
 王への敬意を見せ。そのうえでの言葉だった。
「あの方はまさに至宝なのだからな」
「バイエルンの」
「バイエルンだけではない」
 その国だけに留まらないというのだ。
「ドイツのだ」
「ドイツ全体のですか」
「そうだ、至宝なのだ」
 王はだ。そこまでの人物だというのだ。
「そうした方なのだから」
「しかしそれがわかる方はなのですね」
「少ない。僅かしかいない」
「普通の方にはわからない方なのですね」
「あの方がわかるようになるのは」
 どうなのか。ワーグナーは遠い目をして話す。
「若しかして。永遠にないのかもな」
「永遠に?」
「永遠の謎になるのかも知れない」
 こうコジマに話すのである。
「あの方の繊細さ。美しさ故にだ」
「それ故に」
「そうだ、永遠の謎になるのかもな」
 こう言う
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