286部分:第十九話 ヴェーヌス賛歌その十三
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第十九話 ヴェーヌス賛歌その十三
「そうか。あの方も遂に」
「そうですね。遂にです」
「いいことだ。だが」
「だが?」
「あの方は果たして結ばれるのか」
「あの、結ばれるのは」
コジマはそれを言われてだ。少し目をしばたかせてだ。
そしてそのうえでだ。こうワーグナーに問い返した。
「既に決まっているのでは?」
「王には王妃が必要だからだな」
「必ずいなくてはならないものではないでしょうか」
彼女は常識の観点からワーグナーに話した。
「そうではないでしょうか」
「普通に考えばな」
こう答えるワーグナーだった。コジマのその問いにだ。
「そうなるな」
「はい、違うのですか?」
「あの方は御自身をヘルデンテノールと思われている」
ワーグナーがここで話すのはこのことだった。
「そうだな」
「そうですね。間違いなく」
「しかしそれはだ」
「それはなのですか」
「そうだ。そうではないのだ」
こう話すワーグナーだった。
「あの方はこの場合はむしろだ」
「むしろ?」
「エヴァなのだ」
女性だというのだ。そしてこのことをだ。
コジマに対してだ。こう話すのだった。
「このことは前に話したと思うが」
「はい、確かに」
「そうなのだ。あの方は実は女性なのだからだ」
「その見出された方を結ばれることは」
「難しいだろう」
そうだとだ。コジマに話すワーグナーだった。
「あの方が女性だからこそだ」
「ではこのことは」
「一つ誤れば後味の悪いものになる」
ワーグナーは未来を見ているその目で話した。
「非常にだ」
「そうですか。そうなりますか」
「しかしそのことを理解している者は少ない」
「マイスターだけでしょうか」
「私以外にいるとすれば二人だ」
「二人ですか」
「プロイセンの宰相であるビスマルク卿か」
まずは彼だった。今ドイツを主導しているその彼だというのだ。
「そしてオーストリア皇后であられるだ」
「エリザベート様ですね」
「その御二人しかおられないのではないだろうか」
こう話すのだった。
「私以外にはだ」
「バイエルンにはおられないのですね」
「今はいない」
このことは断言するワーグナーだった。
「誰もな」
「そうなのですか」
「あの方はあまりにも特別な方だ」
「王としてでしょうか」
「王としてもそうだが」
それだけではないというのだ。ワーグナーは言い加えるのだった。
「人としてもだ」
「人としてもまた」
「特別な方なのだ」
王についてだ。こう話すのだった。
「あまりにも純粋で清らかで聡明な方なのだ」
「そうした意味で特別なのですか」
「しかも実は女性なのだ」
その心がだというのだ。
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