第五章
第49話 出発
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入った」
「性急?」
「そうだ。人間はそのキャパシティと寿命とのバランスが悪い。生物の中では圧倒的な器を持っているのに、それを消化するには一生があまりにも短い。そのせいか、わたしから見れば誰もが急いているように見える。
だが、それがよい方向に行っているのかもしれない。どの人間も、わたしが想像していたよりもはるかに貪欲で、精気に満ちている。だから面白いのだろう。
もともと人間については、歴史を紡ぐことができる生物という点で評価はしていたが、こうやって地上で近くから見ることで、あらためて個体それぞれの素晴らしさも感じた」
今度はずいぶんと詳細に答えた。
神は無表情のまま言っているが、賛辞であるのは間違いない。
しかし人間は性急、せっかちということらしい。
なんとなくイタズラ心が芽生えてきたので、もう一つ質問をすることにした。
「へえ。じゃあ、そんな素晴らしい人間たちの世界を初めて体験して、人生観ならぬ神生観は変わりましたか? 自分ももっと生き急がなければならない、とか」
あなたはそんなマイペースな性格だから、地下都市の存在に永らく気づくことなく、文明停滞の問題解決も遅れてしまったんですよ――。
暗にそう皮肉ったつもりだ。
「もちろんまったく変わらないわけではないだろうが……。
お前たち人間は、城の庭にいる虫が美しければ、人生観が変わるほど影響を受けるのか? それと同じだ。神であるわたしが、人間にそこまで大きく影響されるとは考えにくい」
まったくこちらの意図に気付いてもらえなかった。
しかも俺らは虫らしい。
「アナタ俺と話すときは本音全開ですよね。他の人にはそんなこと絶対言わないくせに」
「わたしは同じように接している。お前しかそのようなことを聞いてくる人間がいないだけだ」
「サヨウデスカ」
「お前の扱い方はいまだよくわからぬ……。他の人間のように、神であるわたしのために喜んで働くという考えもない。どうやったらやる気を出すのかも量りづらい。
わたしはお前については評価しているし、今回も期待している。そうむくれるな」
「あ、大丈夫ですよ。むくれているわけじゃないですから」
「……そうか」
もう慣れたということもあり、たまに飛び出す神のおかしなコメントも、決して悪意があるわけではないことがわかっている。
突然難しい仕事を振ってきて、なんのフォローもないことについては、正直勘弁してくれと思うが。
「そうだ。ジメイという孤児院の子がいただろう? あの子をわたしが借りることになった」
「へ? なんでですか」
「わたしの世話役としてだ。わたしは人間の細かい慣習などはわからない。今回の地下都市側の人間との会談には同席する予定だが、それまでの道中で問題
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