暁 〜小説投稿サイト〜
緑の楽園
第五章
第49話 出発
[3/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
入った」
「性急?」

「そうだ。人間はそのキャパシティと寿命とのバランスが悪い。生物の中では圧倒的な器を持っているのに、それを消化するには一生があまりにも短い。そのせいか、わたしから見れば誰もが急いているように見える。
 だが、それがよい方向に行っているのかもしれない。どの人間も、わたしが想像していたよりもはるかに貪欲で、精気に満ちている。だから面白いのだろう。
 もともと人間については、歴史を紡ぐことができる生物という点で評価はしていたが、こうやって地上で近くから見ることで、あらためて個体それぞれの素晴らしさも感じた」

 今度はずいぶんと詳細に答えた。
 神は無表情のまま言っているが、賛辞であるのは間違いない。

 しかし人間は性急、せっかちということらしい。
 なんとなくイタズラ心が芽生えてきたので、もう一つ質問をすることにした。

「へえ。じゃあ、そんな素晴らしい人間たちの世界を初めて体験して、人生観ならぬ神生観は変わりましたか? 自分ももっと生き急がなければならない、とか」

 あなたはそんなマイペースな性格だから、地下都市の存在に永らく気づくことなく、文明停滞の問題解決も遅れてしまったんですよ――。
 暗にそう皮肉ったつもりだ。

「もちろんまったく変わらないわけではないだろうが……。
 お前たち人間は、城の庭にいる虫が美しければ、人生観が変わるほど影響を受けるのか? それと同じだ。神であるわたしが、人間にそこまで大きく影響されるとは考えにくい」

 まったくこちらの意図に気付いてもらえなかった。
 しかも俺らは虫らしい。

「アナタ俺と話すときは本音全開ですよね。他の人にはそんなこと絶対言わないくせに」
「わたしは同じように接している。お前しかそのようなことを聞いてくる人間がいないだけだ」
「サヨウデスカ」

「お前の扱い方はいまだよくわからぬ……。他の人間のように、神であるわたしのために喜んで働くという考えもない。どうやったらやる気を出すのかも量りづらい。
 わたしはお前については評価しているし、今回も期待している。そうむくれるな」

「あ、大丈夫ですよ。むくれているわけじゃないですから」
「……そうか」

 もう慣れたということもあり、たまに飛び出す神のおかしなコメントも、決して悪意があるわけではないことがわかっている。
 突然難しい仕事を振ってきて、なんのフォローもないことについては、正直勘弁してくれと思うが。

「そうだ。ジメイという孤児院の子がいただろう? あの子をわたしが借りることになった」
「へ? なんでですか」
「わたしの世話役としてだ。わたしは人間の細かい慣習などはわからない。今回の地下都市側の人間との会談には同席する予定だが、それまでの道中で問題
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ