67話:後見人
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弟君は姉の異変に気付きながらも、どうすべきか分からず、薬物中毒者の治療を受ける経済的な余裕もなかった。
美しかったご令嬢が、ボロボロの廃人のようになって衰弱死するまでさらに1年。そんな話が表沙汰になっては、もう貴族として再起する事は不可能だ。自殺するように酒を呷って、父親も姉の後を追うように死ぬ。住んでいた家は借金の弁済に充てられ、13歳の嫡男は寒空の下にたたき出される。行き先は当然裏社会だ。下っ端としてチンピラに端金であごで使われる日々。そんな中、突然巻き起こった組織同士の抗争の中で、見せしめのために両手両足の腱を切られて溺死体で河に浮かぶ......」
ここで一旦、伯は言葉を区切ると大き目のため息をついた。
「サイオキシン麻薬がらみで、そっち方面の資料も確認したことがあってね。残念なことだが、今、聞いてもらった話は実際にあった話だ。もちろんその組織も含めて、裏社会に属していた人間は、もうこの世にはいない。後釜がいるのも確かだが、重犯罪を冒すのは危険と考えて、将来は分からないが、ここ3年はそういう事件は起きていない。ここまでひどくはなくとも、グリューネワルト伯爵夫人が後宮に上がらなければ、同じような未来がミューゼル家には待っていただろう。
父君は自分で立ち直るしかないが、グリューネワルト伯爵夫人とミューゼル卿は陛下に救済された部分があることを、忘れぬようにな。それとこの話はまだ早いと思ったが、『もう我が子が胎児で殺されぬか心配する経験はしたくない』ともおっしゃられていた。グリューネワルト伯爵夫人が懐妊する事はないだろう。そもそも陛下が見初める事など出来はしないし、こういう話が出た時点で陛下が断れば、全ての責任がミューゼル家にむかう。理不尽な話だが、これが今の帝国の実情だ」
たしかに伯の言う通りだ。俺は皇帝に姉上を強奪されたと思っていたが、直接、姉上を見初める事ができる訳が無い。あの宮内省の役人は皇帝陛下の代理人を臭わせていたのに......。それにミューゼル家がもう経済的にどうにもならなかったのも事実だろう。あのままなら、姉上が門閥貴族なり、富豪の側室になるくらいしか、手段がなかったのも確かだろう。ただ、守りたい人を守りたいときに、守れる力が無い事が、そこまで罪なのだろうか......。
「私もな、5歳の時に母親代わりの乳母を門閥貴族に殺された。当時、陛下の兄君の派閥に属していた貴族家で、一方で、当時ルントシュテット伯爵家は第二次ティアマト会戦の影響で力を落としていた。私も巻きこまれて重体に陥ったが、皇太子の派閥に属するからと調子に乗って、かなり無理難題をいわれたよ。その時、志を立てた。まずは乳母のけじめをきっちり取ること。そして爵位を振りかざして弱者を踏みにじり泣かせている連中を一掃してやろうとね」
伯から少し凄味という
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