285部分:第十九話 ヴェーヌス賛歌その十二
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第十九話 ヴェーヌス賛歌その十二
「ではだ」
「はい、帰りましょう」
「それからだな。私は」
こうした話をしていってであった。王はだ。
バイエルンに戻る。そうしてだ。
すぐにだ。スイスにいるあの男にだ。電報を打ったのである。
その電報は彼のところに届いた。それはだ。
既にスイスに来ていたコジマがだ。彼に話すのだった。
「奇妙な電報です」
「奇妙な?」
「これは。マイスターの作品の主人公達ですね」
それはだ。すぐにわかるというのだ。
「彼等です」
「私の作品のか」
「親愛なるザックスへ」
この一文でだ。すぐにだった。
ワーグナーはだ。全てを察してこうコジマに話した。
「陛下からか」
「おわかりですか」
「ザックスとは私のことだ」
ワーグナーは言うのだった。ニュルンベルグのマイスタージンガーの主人公である。もう一人の主人公を導きその愛を成就させる人物だ。その人物にだ。
ワーグナーは己を強く投影させている。かなり美化されてはいるが。だからその名前を聞いてだ。彼は王が自分に送った電報だと察したのである。
「陛下が私に送った電報だな」
「はい、その通りです」
「あの方から一体何だ?」
「これまたわからない表現ですが」
コジマはこう前置きしてから話していく。
「ワルターはエヴァを」
「ヴァルターがか」
「まさかこれは」
「誰かわかったな」
「はい、陛下ですね」
コジマもそれがわかった。
「あの方がですか」
「あの方らしいな」
ワーグナーはここでは微笑んで話した。
「あの方は時折別の方になられるのだ」
「バイエルン王からですね」
「そうだ。王という存在は色々とある」
そのことはだ。ワーグナーもわかっているのだ。王は至高の存在であり孤独な存在でもある。そしてその重圧は計り知れないのだ。それを考えるとだった。
「だからだ」
「この様にしてですか」
「別の方になられる」
「それでヴァルターなのですか」
「ヴァルターについてはわかるな」
「はい」
コジマもワーグナーの実質的な妻にただなっているのではないのだ。そうなるにはだ。ワーグナーのことを理解していなければなのだ。
だからこそだ。その彼が誰なのかもだ。彼女はわかったのである。
「マイスターが今作曲しておられる」
「そうだ、あのマイスタージンガーのな」
「もう一人の主人公ですね」
「そう、あの騎士だ」
ニュルンベルグのマイスタージンガーのだ。主人公である。ザックスと共にもう一人の主人公、そしてワーグナーの象徴であるヘルデンテノールなのだ。
「あの若い騎士になられているのだ」
「それが今の陛下ですか」
「その陛下がエヴァを見つけられたな」
「といいますと」
「御后だ」
ま
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