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出来の悪い弟
第三章

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「それだとな」
「本当に冴えて冴えてな」
「性格も変わったって感じでな」
「出来るんだよ、水泳はな」
「そうなんだな」
「これだけはな」
 こと水泳についてはとだ、綾人は友人にまた話した。
「昔からなんだよ」
「それでメダリストにもなってるんだな」
「オリンピックのな、けれどな」
「それでもか?」
「俺が出来るのはな」
 それこそという言葉だった。
「これだけだよ」
「水泳だけか」
「そうだよ」
 こう言うのだった。
「本当にな」
「それだけか」
「ああ、水泳だけが俺の取り柄だよ」
「その取り柄が凄いと思うけれどな」
「どうだろうな」
 今は自信がないという顔の綾人だった、そうして。
 普段の彼通り自信がなくそれが顔にも出てどうにも卑屈な感じがした、しかし世間はそんな彼を見て言うのだった。
「弟は水泳のメダリストでな」
「兄貴は抜群の秀才か」
「兄弟揃って凄いな」
「そうだよな、双子でな」
「凄い双子だな」
「それぞれ凄くてな」
 こう言うのだった。
「親御さんも鼻が高いだろうな」
「息子さんどっちも凄くて」
「あれじゃあな」
「自慢だな」
「自慢の子供達だろうな」
 こう言う、そして両親もだ。
「どっちも凄いの見せてくれるからな」
「それじゃあね」
「言える筈がないよな」
「どっちがよくてどっちが駄目とか」
「最初から比べるつもりはないにしても」
「比べられないわよ」
 とてもというのだ、しかし綾人は。
 オリンピックで金メダルを獲得した、だがそれでも苦い顔で言うばかりだった。
「兄貴には負けるさ」
「お兄さん向こうで博士課程に推薦されてるらしいな」
「ああ、将来はノーベル賞かもな」
「そのお兄さんと比べたらか」
「俺なんてな」
 プールから出るとこう言うのだった。
「どんなものだよ」
「金メダルってかなり凄いだろ」
「どうだろうな」
 水を被っていない、その中にいないとこの通りだった。だが彼はしっかりと素晴らしい結果を出している。このことは紛れもない事実だった。彼が自覚していなくても。


出来の悪い弟   完


                  2018・10・21
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