第8ヶ条
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い髪が麦わら帽子の下で揺れる。
「…なんか分からないけどいいね」
「うん」
俺が長年、妄想の中でイメージしていた彼女との初デートのシチュエーションは全然違った。映画館だったり、遊園地だったり、ショッピングモールだったり。それが、まさか今はずっと好きだった女の子とお城で風に吹かれながらまったりと風景を眺める初デートなんて。
その時、強い風が2人の間を通り抜けた。
「わわっ」
花柄のワンピースがふわりと浮かんで、美森が慌ててそれを抑える。白い光が見えた…気がした。
俺は少しの罪悪感と恥ずかしさに包まれながら心の中で叫んだ。良いどころじゃない、超良い初デートだ、と。
その後、お城の外にあった茶店で2人並んで抹茶ソフトクリームを食べ、お城の近くにある庭園をゆっくりと散策するという、渋くも楽しい初デートを終えて、自分たちの住む街へ再び戻ってきた。
「凄く楽しかった。本当に今日はありがとう」
駅前広場で美森は深々と綺麗な姿勢で頭を下げた。
「いやいや、俺のほうこそ人生で最高の1日を更新したよ。また2人でどこかいこう」
「もちろんっ」
小さく手を振る美森を見送って、これまでに感じたことのない幸福感ともう少し一緒にいたかったなという寂しさで心が一杯になりながら帰途についたのだった。
今晩さっそく美森にメール送ろうかな、なんて考えながら歩いていたらあっという間に家についてしまった。
「ただいまーっ」
弾んだ声で帰宅を叫んだが返事がない。
「あー、父も母も仕事に行ってるのか、そうかそうか」
俺はルンルンと鼻歌を歌いながらリビングに入るなり、ドサッとソファに沈むように座った。
「ああー、なんて良き日だったんだ。」
今日の余韻に浸る俺は端から見れば相当に変質な者に見えるだろう。だがそれも仕方ないことなのだ。
「そうなのだ。ってスイカ?母が買ってきたのかな」
テーブルの上に置かれた立派な西瓜をぺチぺチと叩きながら、陽気に鼻歌を歌う俺は今この時、全世界で一番幸せな野郎に違いなかったのだった。
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