279部分:第十九話 ヴェーヌス賛歌その六
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第十九話 ヴェーヌス賛歌その六
「それがあのバイエルン王ですか」
「奇妙な方です」
「あれではバイエルンも本当に」
「気の毒になります」
こうした話は表には出ない。しかしだった。
王の耳には入りだ。そうしてだった。
その心を傷つけるのだった。そのことをだ。
宿においてだ。王はだ。憂いに満ちた顔でホルニヒに話すのだった。
朝だ。清らかな白い光がカーテン越しに部屋に入る。だが王はその中で憂いに満ちた顔を見せながらだ。既に寝床から出ているホルニヒに話すのだった。
「パリも同じだな」
「同じといいますと?」
「人は同じなのだな」
こう言うのである。
「噂話をする」
「噂のことですか」
「陰口とも言おうか」
そうしたものをだとだ。王は話すのである。
「それを言うのだな」
「それは」
「確かに私は女性を愛さない」
寝床の、天幕の中で話す王だった。王はまだそこにいるのだ。
「しかし。それでもだ」
「愛することはですね」
「自然ではないのか」
これが王の考えだった。
「誰かが誰かを愛するというのは」
「それはその通りですが」
「しかし男が男を愛するのはだな」
「神が定められていますので」
「そうだな。神がな」
まさにその神がだとだ。王もわかっていた。
王には信仰はある。それはあるのだ。しかしなのだ。
その信仰が今はだ。王を苦しめることとなっていた。それは。
「神はそう定められたのだな」
「男は女を愛し」
「女は男を愛するのだな」
「それが決められていますので」
「確かにその通りだ」
王もその摂理は正しいとした。
「それはな。だが」
「だが?」
「私はそれができないのだ」
こうだ。王は寝床の中で暗い顔になり話した。白い光もだ。今は王の心を照らすことはできなかった。朝だというのにだ。王は暗かった。
「どうしてもだ」
「ですが」
「そのことを言う」
そのだ。同性愛のことをだというのだ。
「やはりそれは」
「噂されるべきことだと」
「それはパリもですか」
「人の言葉は何をしても聞こえてくるのだ」
王の耳には入る。それがなのだった。
「辛いものだな」
「いえ、ですが」
「ですが。何だ」
「そのことを御気になされないのもです」
「それも処世か」
「そう思うのですが」
ホルニヒは王にこう話した。
「そしてです」
「わかっている。后をだな」
「御后を迎えられれば人の噂もです」
「それもなくなるか」
「かなり消えると思います」
そうなるとだ。王に対して話すのである。
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