暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
離れた場所にて:あしあと
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積極的な姿を潜めた目の前の少女を見据えながらグリセルダは口を開いた。


「私ね、この街に住んでた頃に小さなギルドのリーダーだったんだ」


 今はみんなバラバラになっちゃったけどね。と、苦笑交じりの注釈を加える。
 それは、これまでヒヨリはおろか戦乙女の大多数さえ知らなかったであろう彼女の過去だった。

 というのも、片翼の戦乙女に加入する女性プレイヤーは何かしら他人に話せない暗部を秘めている。そのことは他者の機微を直感的に察するヒヨリからすれば勘付くのは造作もなかったが、そこから先に踏み込むようなことは決してなかった。これは本来ならば初対面の相手のパーソナルスペースさえ易々と踏み越える彼女の在り方からすれば、本来在り得ないようなことだったのだ。
 しかし、戦乙女に加わる彼女達の暗い部分。他者に話したがらない秘密は総じて深い傷を伴うものばかりだ。自分達に設定されたHPのゲージが全損してしまえば現実の肉体さえ絶命する。呆気なく、簡単に、誰かが死んでしまう。この瞬間にだってどこかの誰かが。或いは、自分の友達である誰かの大切な人が失われているかもしれないし、今後そうなってしまうことだって多いにあり得る。そんな死という概念と近い距離に身を置いたからこそ、一歩距離を置くというスタンスがヒヨリの中に生じたのである。故にこそ、ヒヨリはいつしか初対面の他人に余程の理由がない限り深入りすることは避けるようになった。相手から話してくれる機会を待つ受動的な性格へ徐々に変質していった。

 そのことについて、本人も、当然のことながら幼馴染もまだ気づいていないのだが。


「そのギルドには私の旦那もいてね。そばに大切な人がいるってだけで安心できて、いつかここから抜け出せるようにって少しずつだけど頑張れたんだ」
「グリセルダさん結婚してたの!?」
「うん。リアルでも、こっちでも。まだ結婚式はしてないけどね」


 まるでさっきまでの暗い表情が吹き飛ばされたように、突然素っ頓狂な声で驚くヒヨリに思わず笑いが込み上げるのを堪え、グリセルダ努めて穏やかに答える。
 あの時、自分の恩人と朝食を摂ったテーブルで、彼が座った席にいる彼女の飽きさせない反応に期待しながら、それでも目的を見失わないように注意を払いながら、グリセルダは選んだ文脈を言葉にする。


「でもね、私がちゃんと夫と話せていなかったから、心からそばにいてあげられなかったから、私だけがクーネちゃんのところにいるの」
「………ケンカ、しちゃったの?」


 先程のどこか喜色の入り混じった驚きの声から一転して、不安そうな声に逆戻りする。
 だが、自分を気遣っている彼女の優しさからくるものだ。同時に、それをまだ我が身に置き換えられていない危機感の希薄な状態だ。それを察し、グリセル
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