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緑の楽園
第五章
第47話 茶屋と仔犬
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ようだ。

「あー、さっきの声は巫女さんだったのか。納得」
「すみません。ビックリしてしまって少し大きな声をあげてしまいました。今のはお城の兵士さんだったのですね」

 彼女は明るい表情でそう言うわけだが。
 ……まあ、「少し」じゃないよね。ものすっごい大きな声だったけど。
 そう思いながら、巫女の座っているテーブルに近づいた。

「あのときは本当に世話になったね」
「いえいえ! 私、初めての経験でしたので。いい思い出になりました!」
「あのー、もうちょっと言葉を選んだほうが」
「え? 何でです?」
「いや、わからなければいいです……」

 コツン。
 足元に軽い衝撃を感じた。

「リク」

 クロだ。俺を呼んで見上げてきた。若干困惑気味の顔にも見える。
 どうした? と聞こうとしたが、その原因は見てすぐにわかった。
 クロの後ろ足からお尻のあたりに、一匹の小さな仔犬が顔をこすり付けていたのだ。
 体毛は茶色く、一見すると柴犬の子供のようにも見える。首には、いかにも丈夫そうな布製の首輪が付いていた。

「この仔犬は、もしや……」
「はい。親に捨てられていていた野犬の仔犬です。お兄さんに言われたとおり、ためしに一匹私が躾けてみることにしたんです。さっきまで町を散歩していて、この店で少し休んで戻るつもりでした」
「おお。そうなんだ。順調そうだね」
「すでに結構慣れてますよ。かわいいです」

 クロは逃れようと体を回転させているが、仔犬はクロに顔をこすり付けたまま一緒に回転している。

「どうやらクロさんに懐いていますね。よかった」
「リク、私はどうすればよいのだ」
「ははは。いいんじゃないの? そのままで」

 しばらく、クルクル回っている二匹を鑑賞していた。

「そういえばお兄さん、ヒゲ生やしたんですか?」
「あ、これはちょっと変装する必要があって。付け髭だよ。外そっか」

 俺は付け髭を外した。
 そして、同じく付け髭をしたままのタケルにも声をかけた。

「タケルも外すといいよ」
「あ、いや、僕は遠慮しときます……」
「なんでだよ。その髭全然似合ってないぞ? せっかくの美少年が台なしだ」

 よっと。
 タケルの付け髭を引っ張った。

「あ! リクさん、まずいですって」

 しっかり留めていたわけではないので、あっさり外れた。
 素顔が露わになる。

 ……。

「キャアアア――!!」

 一瞬の静寂ののち、凄まじい悲鳴が店内に響き渡った。

 ――あ。そうか。
 タケルが味方になっていることを、この巫女は知らないのだった。
 ごめんよ。
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