第五章
第47話 茶屋と仔犬
[5/5]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
ようだ。
「あー、さっきの声は巫女さんだったのか。納得」
「すみません。ビックリしてしまって少し大きな声をあげてしまいました。今のはお城の兵士さんだったのですね」
彼女は明るい表情でそう言うわけだが。
……まあ、「少し」じゃないよね。ものすっごい大きな声だったけど。
そう思いながら、巫女の座っているテーブルに近づいた。
「あのときは本当に世話になったね」
「いえいえ! 私、初めての経験でしたので。いい思い出になりました!」
「あのー、もうちょっと言葉を選んだほうが」
「え? 何でです?」
「いや、わからなければいいです……」
コツン。
足元に軽い衝撃を感じた。
「リク」
クロだ。俺を呼んで見上げてきた。若干困惑気味の顔にも見える。
どうした? と聞こうとしたが、その原因は見てすぐにわかった。
クロの後ろ足からお尻のあたりに、一匹の小さな仔犬が顔をこすり付けていたのだ。
体毛は茶色く、一見すると柴犬の子供のようにも見える。首には、いかにも丈夫そうな布製の首輪が付いていた。
「この仔犬は、もしや……」
「はい。親に捨てられていていた野犬の仔犬です。お兄さんに言われたとおり、ためしに一匹私が躾けてみることにしたんです。さっきまで町を散歩していて、この店で少し休んで戻るつもりでした」
「おお。そうなんだ。順調そうだね」
「すでに結構慣れてますよ。かわいいです」
クロは逃れようと体を回転させているが、仔犬はクロに顔をこすり付けたまま一緒に回転している。
「どうやらクロさんに懐いていますね。よかった」
「リク、私はどうすればよいのだ」
「ははは。いいんじゃないの? そのままで」
しばらく、クルクル回っている二匹を鑑賞していた。
「そういえばお兄さん、ヒゲ生やしたんですか?」
「あ、これはちょっと変装する必要があって。付け髭だよ。外そっか」
俺は付け髭を外した。
そして、同じく付け髭をしたままのタケルにも声をかけた。
「タケルも外すといいよ」
「あ、いや、僕は遠慮しときます……」
「なんでだよ。その髭全然似合ってないぞ? せっかくの美少年が台なしだ」
よっと。
タケルの付け髭を引っ張った。
「あ! リクさん、まずいですって」
しっかり留めていたわけではないので、あっさり外れた。
素顔が露わになる。
……。
「キャアアア――!!」
一瞬の静寂ののち、凄まじい悲鳴が店内に響き渡った。
――あ。そうか。
タケルが味方になっていることを、この巫女は知らないのだった。
ごめんよ。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ