277部分:第十九話 ヴェーヌス賛歌その四
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第十九話 ヴェーヌス賛歌その四
「エリザベート、イゾルデ」
「ワーグナー氏の女性達ですね」
「マリー=アントワネットもいるが」
ベルサイユだからだ。それでだった。
「だがまずはだ」
「ワーグナー氏のですか」
「マイスタージンガーではだ」
まだ上演されていないだ。その作品についても話す。
「エヴァだったな」
「その様ですね」
「彼女もいるのだ」
そうだとホルニヒに話すのである。
「そういった女性達はだ」
「では。他には」
「いない」
即答であった。
「彼女達だけだ」
「現実の女性は」
「いて何になるというのだ」
最初からだ。否定する言葉だった。
「現実の女性なぞ」
「そう御考えですか」
「現実の女性は」
どうなのか。王にとってはどういったものなのか。
彼はだ。拒む目で話すのだった。
「私にとってはどうでもいいものなのだろう」
「あくまで物語の中の」
「シシィにしてもだ」
彼の従姉であるだ。オーストリア皇后にしてもだというのだ。
王と彼女は互いに理解し合っている。しかしそれでもだった。
「私は異性として感じはしないのだ」
「異性ではないですか」
「そうだ。確かに心の奥底でつながってはいるのだろう」
皇后にはだ。そうだというのだ。
「だが。異性というよりは」
「というよりは?」
「同性だろうか」
それだというのだ。王の考えではだ。
それを話していきだ。王は見るのだった。
「彼女を見る目は」
「皇后様がですか」
「少なくとも異性と感じたことはない」
「では皇后は男性だというのですか?」
「いや、女性だ」
そのことは否定できなかった。皇后は欧州でも随一とまで謳われる絶世の美女だ。その美貌故にだ。彼女はというとなのだった。
「あくまでだ」
「女性ですか」
「それ以外のものではない」
「では陛下は」
「やはり。それがわからない」
王の言葉には。疑念が浮かび上がっていた。
「私は。王だな」
「はい、その通りです」
「そして后を迎える立場だ」
それは王自身が最もよくわかっていた。己のことだからだ。
だがそれでもなのだった。その心に感じるものはだ。
「だがそれでもだ。シシィに対してはだ」
「同じものを感じられるのですね」
「異性への愛情ではない」
そうではないというのだ。
「肉親への愛情はあるが」
「それでもですか」
「それが私達なのだろう」
遠い目で見ながら。王は話していく。
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