276部分:第十九話 ヴェーヌス賛歌その三
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第十九話 ヴェーヌス賛歌その三
そして一人残った貴婦人はだ。苦い顔でこう言うのであった。
「噂には聞いていましたけれど」
「そうですね。バイエルン王は」
「女性に興味がおありではないようです」
「おそらく。お連れしているあの方が」
「御相手なのでしょう」
王の後姿を見送りながらの言葉だ。他の貴婦人達も言うのだ。
「どなたかは存じませんが」
「あまり身分の高い方ではないようですね」
「そうですね」
ホルニヒの出自はすぐに見抜かれた。
「陛下は御気に召されれば身分にこだわらないといいますが」
「ではやはりなのですね」
「あのお相手の方は」
「あまり高貴な方ではありませんか」
「けれど」
それでもだとだ。パリの貴婦人達の話が変わった。
そうしてだ。彼女達の次の話は。
「本当にお美しい」
「絵画の様なお方です」
「実際に多くの絵画に描かれているようですが」
「さもありなんですね」
「全くです」
そのことがだ。確かに言われるのだった。
王の評判は悪いものではなかった。むしろかなりよかった。とりわけ貴婦人達の間ではだ。既に王の偽名は何の意味もなくなっていた。
そのうえでだ。彼女達は行く先々で王を見ていた。だが王の態度は変わらない。
どれだけ見られてもだ。意に介さない。平然と過ごしていた。
かえってだ。ホルニヒがだ。こう王に言うのだった。
「あの」
「どうしたのだ?」
パリを進みながらの言葉だった。
「一体」
「女性の方々が見ておられますか」
「そうなのか」
王の周りには女性達が集まっている。パリの街中でだ。
貴婦人達だけではなく市井のおかみや娘達もだ。王を見てうっとりとなっている。しかし王はだ。そのことに言われて気付いたといった感じだった。
そうしてだ。こう言うのだった。
「今気付いたが」
「今ですか」
「私は街を見ていた」
パリの街をだというのだ。
「そして考えていたのだ」
「何について考えておられたのですか?」
「宮殿と城のことだ」
「その二つのことをですか」
「それについて考えていた」
まさにだ。その二つについてだというのだ。
そうしてだ。王はホルニヒにこうも話した。
「その二つを一つにしてだ」
「そうしてなのですね」
「そうだ。フランスとワーグナー」
この二つについてもだ。考えていたというのだ。
「この二つもだ」
「一つにされ」
「考えていたのだ。しかしだ」
「女性についてはですか」
「本当に今気付いた」
そしてだ。気付いてもだった。
王は女性達を見ない。全くだった。
そしてそのうえでだ。王はこう言うのだった。
「だがどうでもいい」
「左様ですか」
「私の世界の中にいる女性はだ」
「その
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