275部分:第十九話 ヴェーヌス賛歌その二
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第十九話 ヴェーヌス賛歌その二
「やはり。そうなのか」
「いや、それは」
「ないか」
「そうです。ただ意中のお相手がいないだけです」
それだけだというのだ。ホルニヒは実際にそう考えていた。
しかしだった。彼は王のことを完全に理解できなかった。そのことを理解できる者達は今はだ。王の傍には一人もいないのである。
ホルニヒも王を完全に理解できなかった。それは何故か。
心の奥底で一つになれない、だから王を完全には理解できない。そして彼はそのことについてすらもだ。自覚できないでいたのだ。
その彼がだ。王に話すのである。
「それだけですから」
「そうだといいうのだが」
「はい。それでなのですが?」
「それで?」
「陛下の今のお考えは正しいと思います」
前を見て舞台を観ながら話す彼だった。
「今は舞台が行われているのですから」
「それにだな」
「専念されるのがいいです」
微笑んでだ。王に話した。
「それがです」
「そうだな。それではだな」
「はい、観ましょう」
また王に話す彼だった。
「これから」
「そうだな。今は舞台だ」
また言う王だった。
「それに専念しよう」
「そうしましょう」
こう話してである。王は今はだ。
舞台に専念した。そうしてだ。
舞台が終わりロビー、見事な内装のそのロビーに来るとだった。
ある貴婦人がだ。すぐに来た。その貴婦人は。
すらりとしており茶色の髪を奇麗に上でまとめている。緑の目が映え青いドレスを艶やかに着こなしている。その彼女が来てであった。
王にだ。一礼したうえでこう問うてきたのである。
「伯爵ですね」
「御存知なのですか」
「はい、失礼ながら」
王に言うのである。
「御聞きさせてもらいました」
「左様ですか」
「そしてなのですが」
また言う貴婦人だった。
「これからお時間はありますか?」
「時間がですか」
「はい、それはおありでしょうか」
「はい、あります」
それはだ。あると答える王だった。
「ありますが」
「そうなのですか。それではです」
「それでは?」
「これからお食事でも」
「いえ」
しかしだ。王はだ。
こうだ。落ち着いた声で言うのだった。
「申し訳ありませんが今はです」
「今は?」
「自由な時間を楽しみたいので」
だからだとだ。王は言うのである。
「その申し出を受けることはできません」
「そうなのですか」
「はい、そうです」
王は素っ気無い口調で答えた。
「では。これで」
「わかりました」
貴婦人もこう答えるしかなかった。ここまで素っ気無いとだ。
こうしてだ。王は貴婦人の前から姿を消した。ホルニヒを連れて。
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