風邪を引いた男
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ってしまっていたらしい。眠る前に側にいて、甲斐甲斐しく世話してくれていたあの少女の姿はない。やはり夢だったのか……最後には想像が妄想に化けて、あんな事まで致してしまったのだから逆に夢で良かったのかも知れない。そんな事を考えている男は、ある事に気が付いた。
「あれ、いつの間に着替えなんてーー……」
「あ、先輩起きました?」
キッチンの方からひょっこり顔を覗かせたのは、夢の中に居た少女の姿だった。少女はさも当然のように男に近寄って来ると、男の額に触れた。
「……うん、熱はもう下がってますね。もう少し待ってて下さい、朝ごはんの準備ももうすぐーー」
「……君は、一体誰なんだ?」
男は体調が戻った故に、正常な思考と判断力が戻ってきてしまったが故に、真っ先に抱いた恐怖と疑問を口にした。
男は大学進学の為に田舎から出てきた所謂『田舎者』だ。元々人付き合いが苦手だった事も相俟って友人は少なく、彼女など居た事が無い。そう、ただの一度もである。なので、目の前に存在する少女の事は寂しくモテない自分自身が、熱に浮かされてみた都合の良い夢か幻覚の類いだと思っていたのだ。それが、現実に存在していて、尚且つ自分の部屋にいる。合鍵など、念のためにと両親に預けているだけだというのに。
「くっ、くふっ、くふふふふふふふっ」
目の前の少女は、悪戯がバレてしまった事が至極愉しいかのように、クスクスと小刻みに震えながら笑い出した。
「ダメですよぉ、先輩。病気になったのにお見舞いにも来てくれないような冷たいサークルの人なんかじゃなくて、私みたいに四六時中先輩を気にかけているような人を頼らなきゃ」
「私、先輩に一目惚れしたんです。高3の時にオープンキャンパスで見かけて以来、ずっとずっとず〜っと先輩だけを見続けて来たんです。だから、先輩の事は何でも知りたいし、先輩の側にず〜っと居たいと思っていたんです。先輩のお世話だって私がします。私、これでもお嬢様なので経済的な心配はしないで下さいね?先輩1人位、働かなくても養う位は出来ますから」
「いや、でも、なんで……?」
「何故って?今のご時世、お金を積めば情報くらい簡単に売る人間はごまんと居ますよ?だから先輩のSNSのアカウントは全部知ってますし、今日風邪で大学を休んでると知ってチャンスだと思いました。鍵は業者の人を呼んで開けて貰いましたから、アパートの大家さんから苦情が入る事もないです」
「さぁ、朝ごはんにしましょう。先程引越し業者の方と家から迎えを寄越すようにと連絡を入れました。もうすぐお迎えが来ちゃいますから、急いで食べましょう。あぁそれと、大学には通わなくなるので単位不足で留年……いずれは退学になると思いますが大丈夫ですよね?だって、これからはずっ
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