暁 〜小説投稿サイト〜
Evil Revenger 復讐の女魔導士
兄妹
[1/9]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 子供の頃の兄との想い出。
 それはまだ兄も幼く、私達の関係が歪んでしまう前の話。
 私は森の中を泣きながら走った。
 家の扉を開けて、テーブルの前に腰かけている母の姿を見つけると、しがみ付いて泣きつく。
「あらあら、どうしたの?」
 母は心配そうに私に尋ねる。
 兄さんがぶったよう、と私は泣き喚く。
 そこに足音とともに追いかけてきた兄が、扉の前に姿を現した。
「ヴィレント! なんでそんなことしたの?」
 母に問い詰められて、兄は罰の悪そうな顔をして視線をそらした。
「だってチェントが、母さんに買ってもらった人形を壊したから……」
 兄の右手には、腕の取れた騎士の人形が握られていた。
 街に出た時に、母に買ってもらった木の人形、玩具である。
「チェント、兄さんにはちゃんと謝ったの?」
 母に聞かれて、私は首を横に振った。
「駄目じゃないの。悪いことをしたら、謝りなさい」
 叱りながら、しかし母の声は優しい。
 だってぇ……、と言い訳する私。
「ヴィレントも、妹を叩いちゃ駄目でしょう? あなたもちゃんと謝りなさい」
 兄は不服そうに目を逸らしながら黙っていたが、母にじっと見つめられてやがて、ごめんなさい母さん、と小声で謝った。
「私に謝っても仕方ないでしょう。ほら!」
 なおも目を逸らしたままの兄を、こっちにいらっしゃい、と母は手招きした。
 兄が寄ってくると、母は私達を正面から向き合わせる。
「ほら、相手の目を見て謝るの」
 兄は罰の悪そうな顔をして、私を見ていた。
 それでも兄はしばらく黙っていたが、母に促され、
「……チェント、ごめん」
 俯きながら、上目遣いでそう謝った。
 兄さん、私も……ごめんなさい、とつられて私も返していた。
 母の手が私達2人の頭を撫でる。
「よしよし。私がいなくても、こうやってちゃんと謝って仲直りするのよ?」
 母にそう言われて私は、はい、と返事し、兄は黙って頷いた。
「母さんとの約束だからね」
 言って、母は私達を抱きしめた。
 母がいなくても、謝って仲直りする、とあの日約束した私達。
 でも、結局その約束は2人とも守れないでいたことになる。

 今の私が1人で兄と戦って勝ち目があるか?
 冷静に分析すれば、勝ち目はほぼないというのが結論になるだろう。
 ネモの助けを借りて挑んだあの戦い。途中まで肉薄したと見せかけて、終わってみればかすり傷1つ負わせられなかったというのが、実際の結果だった。
 それでもまだ戦いに挑むのは、私の中に生きている理由、生きることへの執着が殆ど残っていないからだった。
 だが、死ぬのがまったく怖くないと言えば嘘になる。
 復讐に我を忘れて戦いに挑めれば、その方が気持ちは楽だったのかもしれない。
 これは最後の抵抗
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ