兄妹
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私の方から前に出た。右手に1本の魔力剣を握りしめて。
横に2度薙ぎ払い、3度突いた。兄はそれを的確にかわす。激昂したように見えても、見切りの鋭さは全く衰えない。
しかも、以前の戦いで剣が壊されたことがあったためか、今度はこちらの攻撃を1度も受けも払いもしない。体を逸らすだけで、全て完全にかわし切っている。
そして、脇をすり抜けるようにして懐に入ってきた兄の会心の斬り上げがこちらを襲う。これは避けられない。
しかし──
ガチンッ、という金属音がして、絶対に決まるはずだったタイミングの一撃は、私の背中から滑りこむようにして現れた赤い盾によって阻まれた。
「!!」
ネモが残してくれた浮遊石の盾、最後の1枚である。
たった1枚だが、1枚であることが私1人での制御をギリギリ可能にしていた。
左掌に魔力を込め、盾制御に回す。そのため、剣は1本しか使えない。
その上、戦いながらともなれば、今の私では例え盾1枚でもネモほどの制御精度は望めない。それでも、盾無しで挑むよりは遥かに希望があった。
なにより、以前は3枚に分散していた盾強化の魔力を1枚に集中している。3倍の魔力を込めれば堅さも3倍になる……というほど単純なものではなかったが、それでも強度は遥かに増しているのは間違いない。
むしろ、兄との1対1の戦いにおいては、防ぐ攻撃は1つでいいはずだった。これなら以前のように簡単には壊されない。
「また、こいつか!」
兄は斬撃を上方向に受け流され、胴体ががら空きになっていた。
すかさず、私は踏み込んで突く。だがやはり当たらない。
なんて反応……!
頭を狙えば首を傾けるだけでかわし、胴体を狙っても最小限の動作だけで全て避ける。
切り札としての盾をわざわざ背中側に隠して挑んだというのに、攻撃を不意に防がれても何の動揺も誘えていない。あるいは動揺してもなお、かわしきれるだけの余裕があるということか?
なんというしたたかさ。
以前の戦いの時には、届かない強さではないなどと感じていたが、もうそれはまるで勘違いだったというほかない。
それでも諦めない!
私は右手の剣を下げ、左掌を前に突き出して進んだ。
完全に無防備な体勢。兄の攻撃が私に向かって容赦なく繰り出される。
しかし、その尽くを赤い盾が完全に弾き返す。私はあえて避けることをせず、攻撃もやめて、全神経を盾の制御に集中させた。
そして、そのまま前に出る。
「どうしたの兄さん? 剣が届いてないよ?」
兄は攻撃を弾かれるたびに後ろに押し返された。その度に私はさらに前に出る。
「ちっ……」
兄の表情に、僅かに動揺が見えた。こちらの意図を図りかねているようだ。
攻撃を繰り出していない私の方が、兄を後退させている。それは不思議な光景だった
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