273部分:第十八話 遠く過ぎ去った過去その二十三
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第十八話 遠く過ぎ去った過去その二十三
「私もだ」
「伯爵もですか」
「卿も」
「そうだ。私もまた同じだ」
伯爵もまた人間だからだ。醜さを否定しようとするというのだ。
しかしだ。それでもだと話す彼だった。
「しかし否定してもそれは消えないのだ」
「醜さというものは」
「だから両輪なのですか」
「善と悪と言ってもいいだろうか」
伯爵の言葉が変わった。言い換えたのだ。
「人は善を求める」
「そして悪を忌む」
「これは自然ですね」
「人として自然だ。人は美や善を求める」
そしてだ。王はその中でもだというのだ。
伯爵は話す。王のその見ているものについて。
「ローエングリンだが」
「陛下が常に愛されているあのオペラですね」
「ワーグナー氏の」
「あの騎士は美だ」
まさにそれだというのだ。
「そして美だ」
「その二つですか」
「あの騎士にある」
「陛下が愛されているあの騎士に」
「それがありますか」
「それの象徴の様なものだ」
ワーグナーの生み出した騎士はだ。まさに美と善の具現化だというのだ。そうした意味でだ。ワーグナーは最高の芸術を生み出したと言える。
「陛下はその騎士を愛されているのだ」
「しかしです」
「その騎士を生み出したワーグナー氏は」
「御世辞にも」
「どうにも」
「醜さを持っている」
ワーグナーはだ。そうだと断言できた。これは伯爵だけでなくだ。誰もが言えた。それこそドイツの誰もが断言できることだった。
「美も巨大だが醜も巨大な。その二つの資質を持っている者だ」
「ですが陛下は美が巨大であり」
「醜は」
「二つの軸は同じ程でなければならない」
これもまた摂理だというのだ。一つのだ。
「陛下のその不均衡を何とかしなければならないのだ」
「では伯爵はその為に」
「動かれるのですか」
「私は醜さを知っている」
そうだというのだ。
「そしてドイツのことも知っている」
「そのうえにおいて陛下にですか」
「忠義を」
「そうしたい。それでだ」
「はい、では我々もです」
「陛下の為に」
彼等もだ。口々に言うのだった。
「働かせてもらいます」
「是非共」
「頼むぞ。今は大切な時だ」
彼は言った。まただ。
「ドイツにとってな」
「ドイツがまた一つになる」
「本当の意味で一つになる時だからこそ」
「その為にも」
「今は」
「細心を以て行動する」
これは絶対というのだ。
「そうしていくのだ」
「バイエルンの為にですね」
「ひいてはドイツの為に」
「時代の流れではだ」
伯爵は読んでいた。バイエルンとドイツの現状をだ。そしてだ。
どうなっていくのかもだ。現在も未来も読んでいたのだ。
そうしてだ。彼は話すのだ
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