272部分:第十八話 遠く過ぎ去った過去その二十二
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第十八話 遠く過ぎ去った過去その二十二
「どうされたものか」
「一体」
「私はだ」
伯爵はだ。己のことも話すのだった。
自身から見てどうなのか。目でそれを語りながらその言葉を出していくのだった。
「陛下は素晴しい方だと思う」
「はい、確かに」
「王としての資質は素晴しいものがあります」
「生まれついての王と御呼びするべきか」
「それ程の方です」
「気品も優雅さも素晴しい」
卑しさという言葉はだ。王にとっては全く無縁であった。それとは対極の場所にいる、それこそがバイエルン王ルートヴィヒなのである。
「忠誠を誓わなくて。どうするというのだ」
「そうです。あの方の為ならです」
「我々は何でもできます」
「そうした方です」
「人に自然に忠誠心を向かわせられる方なのだ」
伯爵はまた言った。それこそがバイエル王だというのだ。
「だが。陛下はだ」
「その醜いものから目を逸らされる」
「そのことが」
「不幸になるのではないだろうか」
伯爵は心から懸念する目になった。
「このままでは」
「なられますか」
「そうなられると」
「それが心配なのだ」
心からだ。危惧する顔だった。
「あの方はあまりにも純粋でだ」
「はい、その通りです」
「あそこまで純粋な方はです」
「見たことがありません」
「私もです」
「そうだ。私もだ」
伯爵もだというのだ。王程の純粋さを持った者は知らないというのだ。
それを話してだ。彼はさらに話すのだった。
「純粋さはいい」
「はい、清らかさもまた」
「そうしたものはですね」
「いいですね」
「人の持ついいものだ」
そうだとも話す伯爵だった。
「それは。だが」
「だが、なのですね」
「それが」
「あまりにも純粋過ぎる純粋」
まずはこう言ったのである。
「そして清らか過ぎる清らかさはだ」
「かえってよくはない」
「悪いのですね」
「そうだ、諸刃の剣だ」
それになるというのだ。
「それを持つ人を傷つけてしまうのだ」
「陛下をですか」
「あの方を」
「人は。複雑なものだ」
王は遠くを見ていた。それは人を知っているからこその言葉だ。
「清らかなものだけではないのだ」
「醜いものもある」
「確かに。人は清らかなだけではありません」
「醜くもあります」
「そしてそれは否定出来ない」
「結局のところは」
「そうだ。人はだ」
何かというのもだ。伯爵は把握していた。
そしてそれを知ってだ。彼は話すのだった。
「その両輪の中で生きているからだ」
「美しさと醜さは両輪なのですか」
「その二つは」
「醜さは。誰もが否定しようとする」
そうしようとする。それは実はだ。
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