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戦国異伝供書
第十五話 中を見るとその六
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「決して悪ではなかった」
「戦国の世故の行いか」
「殿にしろ多くの者を戦で倒しておる」
 自分達の主である信長もというのだ。
「特に前の一向一揆ではな」
「何十万の門徒達を倒したな」
「それ以外の戦でもじゃ」
「多くの者を倒しておられる」
「しかし殿は悪人か」
 慶次はやや余裕を見せて可児に問うた。
「違うであろう」
「天下統一、その後の長い泰平の為に常に心を砕いておられるわ」
「そして動かれておるな」
「殿程天下のことを考えておられる方はおらぬ」
 可児ははっきりと言い切った。
「決してな」
「それじゃ、もう結論が出ておるわ」
「問題は国や民に対してどうかか」
「わし等にもとなろうな」
 家臣達にもというのだ。
「人の、世のことをお考えじゃ」
「それならばな」
 まさにと話すのだった、二人で。
 そしてだ、慶次は可児にあらためて言った。
「その殿が悪でない、そしてな」
「あ奴もか」
「うむ、その政はどうじゃ」
「随分と悪政を敷いておると聞いたが」
 このことは天下でも言われている、松永は政においても兎角民を苦しめ惨たらしい刑罰も好んでいるとだ。
「それがな」
「随分とじゃな」
「よいものである様じゃな」
「悪名のせいで人気はないが」
 慶次は松永の領内のそれの話もした。
「決して悪政ではなかろう」
「普通の、いや普通よりもな」
「よい政じゃな」
「若し悪政を敷けば」
 その時点でとだ、可児も述べた。
「殿も看過されぬ」
「即刻領地も城も召し上げられるな」
「うむ」
 そうなるとだ、可児は慶次にまた述べた。
「そうなってしまうわ」
「間違いなくのう」
「しかしそうではない」
「わしが思うにまことの悪人は政にこそ出る」
「謀を幾ら使ってもか」
「そうじゃ、その政が己だけのもので国も民も塗炭の苦しみに陥れるなら」
 それならばというのだ。
「それはまさにじゃ」
「悪政でか」
「行う奴は悪人じゃ」
「それでか」
「そうじゃ、わしが思うに松永殿はな」
 彼はというと。
「悪人ではない」
「色々謀を働いてきてもか」
「それでもじゃ」
 それでもというのだ。
「何か致し方ないことでもあったのかもな」
「致し方のないか」
「あの御仁にとってな」
「致し方ないから主家を衰えさせ公方様を弑逆するか」
 この二つのことをここでも言う可児だった。
「大仏殿を焼くか」
「大仏殿のこともか」
「うむ、あれは戦の中でのことじゃが」
「普通はせぬというのじゃな」
「平入道殿と同じではないか」
 平清盛だ、平家物語に書かれていることから戦国の世にあってもとにかく大悪の人物と言われている。
「それでは」
「それはその通りじゃがな」
「ここまで揃って
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