表彰式
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来賓の紹介とともに、ヨブ・トリューニヒト国防委員が壇上へと立つ。
手を振ってカメラに目を向ける姿は、やはり政治家というよりも役者が向いている。
作った表情が彼の本音を隠しているようだ。
通常の人であれば、その姿に気づくことはない。
だが、相手の真意を測ろうとする戦略家にとっては、隠しているようにも見える姿は気持ち悪くも感じるのだろう。
隣を見れば、ヤンが少し眉を寄せているのが見えた。
「さて。本日はこのような素晴らしい式典に列席させていただき、コートニー統合作戦本部長をはじめ、感謝させていただきます。また若いながらも、表彰された活躍についてはよくよく拝見させていただきました。即ち、第五次イゼルローン要塞攻略戦です」
コートニーが静かな口調であったのに対して、トリューニヒトは非常にはきはきと、そして抑揚をつけて話した。
聞きやすく、また言葉のたびに動作をつける姿はわかりやすいだろう。
どこかたかれるフラッシュも先ほどよりも多く見えた。
「第五次イゼルローン要塞攻略戦。この戦いでは多くの将兵が犠牲となりました。だが、ヤン中佐、そしてマクワイルド少佐の力により、多くの助かった命があったと」
そして、力強く壇上に手を置いた。
「まことに素晴らしいことであります」
動きが止まる。
その様子を見て、再びフラッシュが激しくたかれた。
まるで映画のワンシーンでも見ているかのような大げさな所作に、興奮が伝播したように周囲が騒めいた。
「茶番か」
それとは対象的に、静かな声は隣からだ。
どこか呆れたような声は、周囲の騒めきにかき消されていく。
だが、その周囲の騒めきもトリューニヒトの動作で静かになった。
手を振り上げたのだ。
「だが、憎き帝国はいまだ健在――貴官らには今回の表彰をもって、イゼルローンの攻略、そして帝国の打破という重要な任務を遂行していただきたいと考えております。それは過去誰も成し遂げたことのない困難な道のりかもしれませんが――貴官ら二人だけではなく、自由惑星同盟軍が――そして、自由惑星同盟市民が一丸となって、この困難に立ち向かえば、必ずやかなえられるものであると」
隣で小さく硬質な音がした。
どうやらヤンのトリューニヒト嫌いは現実のものとなるようだ。
彼が目の前で語るのは理想。
それだけならば一人の理想で終わるが、彼は同盟市民を代表する政治家だ。
彼の振るう拳は、言葉は、彼一人の理想ではなく、同盟市民の理想。
ヤン自身はそこまで考えていないのかもしれない。
そこまで同盟市民は馬鹿ではないと。
だからこそ、トリューニヒトの言葉を嫌うのかもしれない。
余計な先導をするなと。
だが、アレスの目には――以前士官学校であった時よりも
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