見たいもの
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ルローン要塞攻略戦が終了し、その時に入れていた物資が空になったはずの倉庫で、一人の男が電話を片手に立っていた。
どこか陰湿な印象を与える、暗い同盟軍の士官だ。
それは猫背によるところか、あるいはにやけた表情によるところか。
周囲には誰もいない。
だが、男は自分の存在すらも隠すかのように、ぼそぼそと電話口でしゃべった。
「本当に大丈夫なんだろうな」
疑いを込めた声に、穏やかな声が電話口で回答する。
『問題ありません。全ては計画のとおりになっております』
「前回もそう言っていたじゃないか。だが、結果的に半年近く延期をしている。私だっていつまでこの基地にいられるかわからない」
『延期については申し訳ありません。何分、相手もあることですので』
「誤魔化すな。知っているぞ――延期したのはアース社が」
『ベイ中佐』
厳しい言葉が、男――ベイの声を止めた。
『僭越ながら――言葉は慎まれたほうがよろしいかと。今までも十分な報酬は払ってきているはずです』
「それは……そうだが」
『そして、今回はさらに倍をお約束します。それだけあれば、あなたのさらなる栄達も可能では』
ベイが小さく唸った。
「だが。私ができるのはこちら側で荷物を回収するだけだ。本当に帝国は来るのか」
『ご安心を。既にオーディンを出立して、イゼルローン要塞に向かっているとの一報がありました。そちらに到着するのは、九月ごろを予定しております』
不安げに落ち着かないベイとは対照的に、電話口の声はひどく優しく、温かい。
子供に言い聞かせるようにゆっくりとした口調。
「わかった。近くになったら教えてくれ」
『はい。では、今後ともよろしくお願いいたします』
電話の電源が切れれば、真っ暗な倉庫に明かりはない。
ただ外の街灯の光だけが、空虚な倉庫を照らしていた。
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