見たいもの
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物に接触したものは」
「……いえ」
「だろうな。この者はエリューセラ星域の出身だったな、そこで大学卒業まで暮らしていた」
「ええ。学位の情報も上がっております。星間経済学を学び、学士を得ています。その後」
「地元の貿易商で働き、三十を目前にして現在の会社を設立」
その通りだとバグダッシュは頷いた。
「エリューセラ星域は――出身者が聞けば否定するかもしれんが、訛りがある」
「存じています。ハイネセンからの通信を、エリューセラ星域出身の通信士官が受けて、タッシリ星域出身の暗号士官が解読した。数日後、艦隊司令官から慌てて連絡がきた。『本当にフェザーンに攻撃を仕掛けてもよいのか』と。有名な笑い話ですな」
肩をすくめて笑う様子にも、アロンソの表情は変わらなかった。
「私は少し話しただけであったが――彼にエリューセラ星域の訛りはなかった。むしろ、フェザーンの訛りはあったが」
「それは人によっては、長年暮らせば訛りも消えるでしょう。フェザーンとの取引で培われたものでは」
「この経歴のどこにフェザーンとのつながりがある。先ほどフェザーンや帝国とのパイプは一切ないといったのは君ではないかね」
差し出された書類を目にして、バグダッシュが初めて笑みを消した。
受け取った書類に再び視線を這わせる。
そこには先ほど報告した通り――星間の貿易だけで、一切フェザーン企業との取引がない旨が書かれていた。
当然だ。それをまとめたのは自分であるから。
だが、星間取引の際にフェザーン側の人間と取引をしたということは。
そう考えて、バグダッシュはあり得ないと考える。
恒星間の小規模な食料品の取引までフェザーンが噛んでくる可能性はあるのかと。
現在のところ、その現状はないというのが結論だった。
一つは儲けのためならどんな所でも行くフェザーン人だが、逆に言えば儲けがなければ行動することもないという事。
小規模な食料品の取引など、確かに需要はあるが、大きな儲けにはつながらない。
さらに、食料の輸送ということも問題だ。
食糧輸送を抑えられるということは、自由惑星同盟の食糧事情を抑えられるということ。
帝国側の情報を集める第一課、フェザーン側の情報を集める第二課。
そして、それ以外に発生しうる危険の可能性を調査するのが第三課の仕事だ。
そんな第三課でフェザーン人が星間の食料品取引などしていれば、すぐにわかる。
「バグダッシュ少佐。情報を集めることは大事だ――だが、情報から見えない情報を見ることが最も大切なことだ」
感情の乏しい声を向けられて、バグダッシュは手にした書類をわずかに震わせた。
「経歴を見るに、今まで星間の小規模な取引しかしていなかっただろう。そこになぜ大企業のトップに話を
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