第四章
第43話 約束
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、お湯で足を伸ばした状態で、会話のない時間がしばらく続いた。
そして意外にも、沈黙を破ってきたのは彼のほうだった。
「僕……こんなに構ってもらうの、初めてな気がします」
「そうなのか? じゃあ疲れただろ」
「そうですね。疲れはしましたけど……」
「しましたけど?」
「みんな、優しい……ですね」
「ははは。昼間も言ったけど。お前がどんな教え方をされてきたかは知らないけど、やっぱり同じ『人間』なんだよ」
「……」
「構われるのは、嫌じゃなかっただろ?」
「はい、嫌ではなかったです」
少し顔が赤いのは、お湯で温まっているせいなのか、それとも照れているのか。
彼はあまり他人から――特に年下や同年代の子供や、俺くらいの若い人から――構われたことがなかったのかもしれない。
「そっちの『組織』って若い人が少ないのか?」
何となく聞いたのだが、すぐに「しまった」と思った。
「あ、ごめん。これは尋問とかじゃないんで。俺が個人的に質問しただけ。話したくなかったら、まだ無理に話さなくていいからな? まだ気持ちも整理できてないだろうし」
しかし、彼の表情が硬化することはなかった。
表情は先ほどのままから変えず、こちらに会話を返してくる。
「少ないと思います。小さい頃から、歳がかなり離れた人としか関わりがなかったですから」
「……。いいのか?」
「それ自体は大した話ではないですし」
タケルはあっさり返してきた。
そして「それに」と言って続ける。
「あのとき、僕を殺さずに捕まえたのって、こちらの組織の情報を入手したいという目的があったからですよね? なら、僕がどんどん話したほうが、リクさんは助かるんじゃないですか?」
違う。
あのときは、そのような考えがあって捕らえたわけではない。
「んー……。もちろんこの国としては、お前から情報を引き出したいというのはあるよ? それは隠すつもりはないというか……。でも、あのとき、俺がお前を殺さなかったのは、そんな打算的なことを考えていたわけじゃなくて――」
「でも、降伏して情報提供すれば死なずに済むとか、そんなことをリクさんに言われた記憶がありますよ?」
「あれは……情報が欲しいから降伏してくれ、というのとは意味が違う」
「ではどういう意味なんですか?」
「えっと。ああ言えば、降伏してくれる可能性が上がるのかなと思ったからで……。
お前が俺の前に出てきたとき、凄くつらそうな感じに見えたんだ。それで話を聞いたら、無謀としか思えない命令を受けて来たってことだったからさ。
何でここでこいつが死ななきゃいけないんだとか、こんな若い人間を死にに行かせる組織って一体どうなってるんだとか、そんなことが頭の中に出てきて。
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