アインクラッド 後編
還魂の喚び声
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友の命を奪った奴らのアジトに乗り込んでくるマサキ君の気持ちを想うと、今にも胸がはちきれそうだった。
「イッヒヒ、面白くなってきたぜ。目の前でダチ殺した次は助けに来た女に死ねって言われるんだからなァ。クク、あのお高くとまった陰険野郎にゃピッタリの最期だ――」
「…………でよ」
「あァ?」
「ふざけないでよ――!」
限界を超えた怒りが火山弾の如く噴出すると共に、わたしは顔を上げて目の前の頭陀袋を睨む。両目部分に穴が空いたそれは輪郭が滲んでいて、わたしの頬を煮えたぎった何かが伝い落ちたが、わたしは気にも留めなかった。
「あんたがっ、あんたなんかがっ! マサキ君の何を知ってるの! 何がピッタリよ! なにっ、何も分かってないくせに!! ……不器用で、無愛想だけど、それでもわたしを救ってくれた! 今だって、こんなわたしのために一生懸命になってくれてる! それ、を……っ、あんたたちみたいな奴が馬鹿にするな! マサキ君をっ! 語るなぁっ!!」
それは原色の絵の具を調色せずキャンバスにぶちまけたような啼泣だった。涙で声は掠れるし、口は変に引きつっていて思ったとおりに動きやしない。その上喉と肺が自分勝手に呼吸したがるから、変な場所でしょっちゅう息継ぎが入って単語の切れ目は分からないわ、少しでも上ずると自分で自分の声と分からないほどの金切り声になるわで、言葉を他人への意思伝達手段だと捉えるなら、こんなのは小学校の国語でだって落第点だ。いつの間にかわたしは両目を瞑っていたけれど、ジョニーブラックが何かを言うことはなかった。やがて使える言葉が底をつき、わたしは滲む視界を肩ごと上下させて深呼吸を繰り返すと同時に目の前の頭陀袋を睨みつける。頭陀袋に覆われていては表情も何も読み取れないが、予想外の抵抗に呆気に取られているような佇まいだった。
「テメェ……」
魂の底から染み出したような低い声。ジョニーの右拳がゆっくりと持ち上がり、じっとそれを見据えていたわたしの眉間を激しく打擲した。
「ナメてンじゃねェぞ! 自分の状況くらい、弁えろってンだよ! ア゛ァ゛!?」
手なのか足なのか分からない殴打が何発も続けて飛んできて、わたしの身体中を激しく打ち据えるが、そんなもので与えられるのは少々の酩酊感とやかましい光、音くらいのもの。攻撃が止んだ途端、前髪を揺することもせず抵抗の意思を込めてジョニーに向けて眉を寄せると、それがよっぽど気に入らなかったのだろう、遂に得物であるダガーを持ち出した。
「チッ、どうせ後で全員殺すんだ、多少順番が入れ替わっても大したことじゃねェよなァ!」
真上に振りかぶったダガーが、わたしの正中線に向けて振り下ろされる。その瞬間、わたしは咄嗟に右肩を引き、左肩をその軌道上に
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