アインクラッド 後編
還魂の喚び声
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たしにできる最大限の抵抗であり、わたしに残された最後のプライドだった。
「ッチ、おっせェなァジュンの野郎ォ。もうくたばったんじゃねぇのかァ?」
小刻みに床を何かが叩く音が聞こえる。畳んだ膝元に固定されていた視線を眼球だけを動かしてそちらへ向けると、シュシュを奪われたことで垂れ下がりブラインドのようになっていた前髪の隙間から、腕組みをして踵で何度も床を打ち鳴らすジョニーブラックの姿が見えた。今この部屋にいるのはわたしと彼だけで、Pohはコートの人影に続いて出て行った。
「つか、こんなでっかい祭りだってのに、俺一人だけ女のお守りたァどういうことだよ、クソッタレ!」
彼の苛立ちは次第に肥大化していき、やがて壁を蹴り始める。今は彼を刺激せず、大人しくしているべきだと考え目線を元に戻そうとしたのが、運悪くその寸前で目が合ってしまった。慌てて逸らしたが、耳には反響する足音が届き、見下ろしていた視界に薄い影が伸びてきた。わたしはジョニーがすぐそこにいることを悟り、奥歯をぎゅっと噛み締める。
「何見てやがんだ、よッ!」
目を瞑った次の瞬間、わたしは顔面に強い衝撃を受けて背後の壁に頭を強く打ち付けた。ショックが体から抜けた後に目を開けると、ジョニーが振り上げた脚を下ろすところで、わたしが蹴られたのだと分かった。何てことはない。ペインアブソーバが機能している限り、どれだけ暴力を受けたところで痛くも痒くもないのだから。蹴られたダメージでHPが減りはしたが、ソードスキルを使わないただのキックで受けるダメージなんてたかが知れている。
「へっへ、お前もあんな奴と仲良くならなきゃ、まだ楽しく行きてられたかもしれないのになァ。……そうだ、いいこと思いついた」
ジョニーは私の髪を無造作に掴み持ち上げて目を合わせると、その行動と見た目からは似つかない子供のような声で言った。
「お前、俺様の女になれ」
わたしの全身を凄まじい嫌悪が駆け巡り、末端に至るまでがぞわぞわと震えた。
「《穹色》が来たら、『私は見も心もジョニーブラック様のものです』って言え。そしたら俺がアイツに『お前が今ここで死んだらコイツは助けてやる』って言うから、続けて『わたしのために死んでくれ』とでも言えよ。あいつが惨めに死にたくなるように演技できたら、命は助けてやってもいいぜェ」
一方的に叩き付けられる宇宙語みたいな言葉の意味を理解した瞬間、わたしは耐えられなくなって目を伏せた。全身の筋肉がブルブルと悲鳴をあげ、奥歯がぎりぎりと軋む。それはわたしがこの場で初めて感じた猛烈なまでの怒りだった。
――ふざけるな。
胸のうちで煮えたぎったマグマが噴き上がる。一体どれだけ自分勝手になればこんな考えが浮かぶのだろう。勝手に捕まった女のために、かつて親
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