アインクラッド 後編
還魂の喚び声
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プレイヤーを殺すために練り上げられた策であることは明らかだった。
「……『この日の為に』ってのは、嘘じゃないみたいだな」
「本当は、もっと早く潰すつもりだったんですけどね。マサキさんの振りをして中層プレイヤーを襲い、その目撃情報と噂を攻略組に流す。殺人犯の烙印を押されて攻略組から追放され、《モノクロームの天使》からも見放されたあんたを笑いながら殺すのが当初の計画でした。それまで味方だった攻略組に見捨てられ殺された仲間のようにね。……しかしまあ、まさかあんな方法で破られるとは思ってもいませんでしたけど」
「あの一件も、お前の差し金だったということか」
「ええ、まあ。計画の立案と調整にはヘッドの力を借りましたけど、実行は全部僕です」
あっけらかんと自らの殺人を明かしたジュン。その誇らしささえ垣間見える態度にマサキは上下の歯列を僅かばかり擦り合わせた。
気が付けば、太陽のように笑うエミを記憶から浚い反芻していた。これまでずっと冷たくあしらい続けてきたくせをして、こんな時ばかりその笑顔に縋りつき、助けを乞おうとするなんて、酷い話もあったものだと自分でも思う。麻酔のようなものだ。こうして都合のいい思い出に浸り、溺れ、目を逸らし。助けるためなんて恰好つけた理由を大声で叫んで、目と耳を塞いでしまう。そうすれば、少しは自分を麻痺させることができるかもしれない。
最早「あわよくば捕縛」などと考えていられる余裕はない。エミを助けるには、眼前の男を殺す他ないのだ。マサキは左手で、震える右手ごと蒼風を握り締めた。
こんなにも辛く、苦しい一秒があることをわたしは知らなかった。呼吸をすればするほど苦しい。干からびた喉は仮想の空気が通るたびヒリヒリと痛み、唾さえ呑みこむことができない。自分を落ち着かせようと深呼吸を心がけたら、吐息が小刻みに擦れ、震え。ひ、ひ、ひ、と何度も引きつるように喉がつかえた。もういっそ気を失ってしまえば、なんて囁きが蜜のように甘い官能を滴らせる。それは意味が異なる二つの諦念だった。この世界で純潔を失ったとしても現実世界のわたしの身体に傷が残るわけではなく、このまま殺されるのならば、貞操の心配をしたところで意味が無い、という。
それでも、と、わたしは唇を引き結ぶ。マサキ君は来てくれる。根拠の無い希望的観測ではなく、これまで近くで彼を見てきた経験から、わたしは確信を持っていた。だからこそ負けられない。ここでわたしが音を上げて奴らの手にかかるようなことがあれば、きっと後でマサキ君は悔やみ、自分を責めるだろうから。勝手におせっかいをやいた挙句人質になるなんて間抜けを晒したわたしだけど、このまま終わりたくないって、マサキ君の力になりたいって願ったから。絶対に負けてなるものか。無傷でマサキ君に助けられることが現状のわ
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