第一章 初体験
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力の規模からまず艦隊戦闘は行われないであろうとの事。
衛生軌道上の制宙権を確保した上での陸戦が主な戦いになる、そういう結論で締め括られた。
陸戦ということは当然シェーンコップ准将とローゼンリッター連隊の出番だ。
会議に出席していた僕の白兵戦技の師匠でもある准将にお気を付けて、と声を掛けたら軽く口を歪ませながらこう返答された。
今の同盟軍じゃあ気を付けなきゃいかん程の部隊は残っちゃいないさ、多少ましなのはビュコックの爺さんのところくらいだろうと。
艦橋に設えられた会議卓の向こう側からはムライ少将の咎めるような視線が飛んでくる。
准将は(間違いなく気付いているのだろうけど)何食わぬ顔で僕の肩を軽く叩き、少年の心配はありがたく受け止めるさなどと嘯き艦橋を去っていった。
ムライ少将に目を遣れば、首を振りながら書類を脇に抱えて溜め息を吐かれていた。
我が艦隊の良心は気苦労が絶えないようだ。
准将からすれば戦場に赴く際に悲壮感(何とうちの艦隊に似合わない言葉だろう!)を漂わせるなど己の沽券に関わるという事だろうか。
だからといってあんな事を言わなくてもいいと思うのだが。
ああいうのを露悪趣味というのだろうか、准将は何故か常に他人を試すような物言いをされているような気がする。
自分はこんな困った奴だぞ、さあお前らは俺をどう扱うんだ。
言葉にすればこんな感じだろうか。
他の艦隊ならともかくヤン艦隊にあっては准将もローゼンリッター連隊も欠かせない仲間だと思うのだが。
ただ准将も言われたように現在の同盟軍が弱体化しているのは確かなんだ、あのアムリッツァ会戦の後遺症で。
帝国での内乱がローエングラム候の勝利に終われば敵は更に手強くなる。
こんな同国人同士で争っている場合ではないはずなんだけど、現実には戦いは止まらない。
明日にはシャンプールでの戦闘が始まる。
それが終わったってまだ三ヶ所も制圧しなくちゃいけない。
そして最後は首都星ハイネセン、か。
グリーンヒル大尉のお父さん、ビュコック提督、ジュニアハイ時代の友達・・・
僕や僕の大事な人達にとっての大事な人達が多く住む星。
そこへ向かう事になるんだ、艦隊で攻めこむという形で。
みんなが僕に言ってくれる。
焦るな、自分の手の届く範囲の事からやれと。
だけどやっぱり焦ってしまう、自分に何か出来ることはないものかと。
こんな子供の我が儘なんて決して口に出す事は出来ないけれど、つい考えてしまう。
もう少し早く生まれていたら、ヤン提督やアッテンボロー提督と同じ時代に士官学校に通えていたらと。
馬鹿な空想は暗黒の宇宙に飲み込まれていく。
明日はさすがに日記を書けないかもしれないな。
七九七年 四月二十六日
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