第一章 初体験
[6/15]
[1]次 [9]前 最後 最初
態度を取られる事もないし、僕に対しても自由に好きな事をやらせてくださる方なのだけれども、何も命じられないというのも中々に辛い。
僕は従卒として常に提督のお側に控えているわけだけれども、その提督は殆んどの時間を司令官席に座って居眠りをしていらっしゃる。
デスクに足を投げ出してベレー帽を顔に乗せて。
勿論提督の頭の中では近い未来や遠い未来、様々なお考えが渦巻いているのだろうけど、少しだけ呆れてしまった僕を誰か責められるだろうか。
艦橋ではオペレーターの皆さんは当然としてグリーンヒル大尉を始め、幕僚の皆さんも忙しくたち振る舞っていらっしゃるというのに。
「上に立つ者の役目は進むべき進路を定める事と最終的な結果に責任を取るという事さ。
それ以外の事にまででしゃばるのは却って邪魔になるだけだよ」とはこの日の夕食時に聞いた提督の弁。
確かに提督に事務的な意味での勤勉さを求めても意味がないのかもしれないし、実際ヤン提督は誰にも真似の出来ない功績を挙げていらっしゃるわけだけれど、僕はこう聞き返さずにはおれなかった。
「でも提督は司令官職に就く前からあまり勤勉ではなかったと聞いたことがあるんですけど」
さすがに穀潰しやら無駄飯喰らいという表現は避けた。提督に面と向かってそう言えるのはうちの艦隊ではキャゼルヌ少将くらいだろう。
「ん?参謀時代の事かい。
何しろ作戦参謀というのはかなり数がいるからね。
私がそこでもでしゃばればやっぱり他の人の仕事を奪ってしまうだろう。
軍隊にとってチームワークというのは何よりも大事だからね。
私は艦隊の和を重んじているんだよ、今も昔もね」
あっさり返された言葉に僕は言葉も無かった。
呆れたのか、感嘆したのか、再反論を考えていたのかは・・・まあ内緒としておこう。
未来の僕への宿題だ。
七九七年 四月二十二日
ヤン艦隊は当初、直接ハイネセンに向かう予定だったのだが本日開かれた作戦会議(僕も艦橋の隅からその様子を見学させてもらった)でシャンプール星域に向かう事が決定された。
ヤン提督のお考えでは僕達が真っ直ぐハイネセンに向かった場合、イゼルローン要塞と艦隊との連絡・補給ルートを攪乱される危険性があるとの事。
ヤン提督が僕に正式な軍人になって欲しくないというのは何度も聞かされているが、同時に提督の戦略・戦術に関するお考えも良く聞かしてくださる。
勿論提督はお忙しい身(のはずだ。キャゼルヌ少将始め異論のある人は多そうだけれども)だから学校の授業のような講義をしてくださるわけじゃない。
時間は大体夕食後の一時が多いのだけれど、それも特にそう決まっているわけじゃあない。
最近でこそ僕のほうから提督にそんな話題を振る事も多いのだ
[1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ