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緑の楽園
第四章
第40話 選択
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ションがよすぎた。
 俺の声は間に合わない。発する前にクロの牙が彼に届いてしまう。

 ああ……。
 クロは、タケルの首を噛み切るつもりだろうか。
 一瞬後には、彼の首から鮮血が吹きあがることになるのだろうか。
 それは見たくない――目をつぶってしまった。

「リク、今だ!」

 ――ん?
 目を開けると、タケルは苦しそうに倒れたままだった。
 クロを見ると、短剣を口に咥えていた。

 俺はすぐにこの状況が理解できた。
 そして、何をすべきかも。

 少年に駆け寄り、上着を脱いで紐の代わりにし、両足を縛った。
 そしてシャツも脱いで、両手を縛った。
 他は……舌を噛んで自害される可能性がゼロとは言えない。口にも何か必要だ。
 タオルはないので、ズボンを使う。

「悪いな。ちょっと我慢してもらうぞ」

 ズボンを脱いで猿ぐつわの代わりにする。
 これでよし。捕縛成功だ。

「クロ、俺の考えていることがわかったんだな。殺さないようにしたいって」
「ああ……。お前の話していた内容と戦い方を見て、そうだと判断した」

 そう答えたクロの顔は、少し誇らしげなようにも見えた。
 戦いが始まってから、クロには何の指示も出していなかった。
 なのに、こちらの言いたいことが伝わっていた。

「ありがとな」

 いろいろと興奮しているのか、礼を言うときに少し声が震えた。

「礼を言う必要はない」
「まあまあ、そこは素直に礼を言われとけ。飼い主の感謝を素直に受けるのも、飼い犬の大事な仕事だぞ?」
「……」

 このあたり、頑固なところは変わらない。
 もう少し柔軟だと嬉しいが。まあそれは難しいか。

 さて。
 速やかに、この少年を城の人に引き渡さなければならない。
 引き渡した後は、とりあえず牢に入れられ、処置が検討されることになるものと思う。
 死刑などにはならないと思うが、念のため後で国王に確認はしておこう。

「じゃあ、急いで警備の人を呼んでくる。クロはそいつの横で見張っていてくれ」
「わかった」

 駆け足で、会場に向かった。



 到着したとき、まだ立食パーティは続いていた。
 始まってからだいぶ時間は経っているので、会場の端に置かれた休憩用の椅子には、座っている人も散見される。
 だがまだまだ、賑やかな宴という雰囲気だ。

 ――ええと。警備の人は、と。

「キャアアッ」
「キャー」
「キャアアアア」

 貴婦人の悲鳴が、コーラスのように重なり合った。皿を落とす人もいた。
 視線は……こちらを向いているような気もする。

 ――あれ? 何でだ。

 あ……。しまった。
 大事なことを忘れていた。
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