58話:それぞれの決断
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はかなり混雑していた。残念ながら戦況は帝国優位に進んでいる。遺族年金や戦傷者の社会復帰政策への申請が相次いでいるのだろう。奨学金に関連する受付番号発行システムで進学相談のボタンを押し、出てきた券を持って近くのベンチに座る。こういう場であまり周囲をじろじろ見るのも揉め事の原因になりかねない。
しばらくすると私の番号が呼ばれ、すこし割腹の良い中年の女性がいる受付へ向かった。こういうのは慣れないが、事情をかいつまんで話すと、彼女が申し訳なさそうな表情をしながら今の奨学金の実情を話し出した。
「無料で学べる史学科ねえ。長引く戦争の影響で人文系の学部への奨学金は新規の申請はほぼ下りない状況なのよ。ハイネセン記念大学も、国立自治大学も、史学科となると学費は自費でという事になるわねえ......。調べてみるから少し座って待っていてもらえるかしら」
そう言うと、彼女は情報端末を見ながらキーボードをカタカタと打ち始めた。そう言えば、『割腹が良い』というのは女性に使って良い表現なのだろうか......。などと考えていると、キーボードを打つ音が止まり、彼女はつぶやいたつもりだろうが私にも聞こえる声量で、
「ここも史学科と言えば史学科ねえ......」
とつぶやいた。思わず目が合うと、モニターをこちら側にむけて来る。
「同盟軍士官学校戦史研究科ですか」
「ここなら学費も無料だし、生活費も支給してもらえるわね。ハイネセン記念大学の史学科に合格できる学力があるなら十分合格できると思うけど......」
反応を確認するような視線に気づかぬふりをしながら、モニターに映し出された資料を確認する。士官学校を卒業して10年勤めあげたら退役軍人年金ももらえる。良い話だとは思うが、『父の知己で、私を気遣ってくれた恩人の敵国の伯爵と年金の為に戦う』かあ。言葉遊びならまだあり得るが、自分の身に実際に振りかかると、なんとも言えないものがある。ただ、この選択肢を選ばないとするとフェザーンへ行くしかないだろう。
「ありがとうございます。願書を頂ければ幸いです」
今更だが、父の人生論を思い出した。『金銭があれば嫌な奴に頭を下げずに済むし生活の為に説を曲げる事もない』かあ。こんなに早く実感することになるとは思っていなかった。その場で願書を記入し、お礼を述べて福祉局を後にする。今日から受験日までは比較的安めのホテル・カプリコーンでホテル住まいをすることになるだろう。
宇宙歴783年 帝国歴474年 4月下旬
首都星オーディン リューデリッツ邸
ザイトリッツ・フォン・リューデリッツ
「父上、母上。今回は忙しい中、お時間を頂きありがとうございます」
応接セットの対面に座る嫡男のアルブレヒトが神妙な面持ちで話し始めた。進路の件で色々と思い悩
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