動き
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「ですが。まだ確定ではありませんので。それに……」
ウェインの目を、女性――眼鏡をかけ、タイトスカートをはいた美女が切れ長の目で見返した。まとめた髪が、静かに揺れる。
「自治領主閣下は暗部を外すようにと指示をされました」
「は」
と、ウェインはから笑い。
馬鹿と言わんばかりに、近づいた女性に手を振った。
「手持ちの駒を変えるだけで、どれだけの時間がかかるか知っているのか。準備だけで数か月はかかる――ましてや、今回の件については数年単位で準備をしていたのだ」
ばかばかしいと言わんばかりの表情だった。
「さらに今回は自由惑星同盟の企業に深く食い込む作業だ。数年以上の時間をかけている――それを辞めるというのは言葉だけならば簡単だろう」
「しかし、それは指示に逆らうのでは」
「自治領主閣下の言葉をお聞きしなかったのか。閣下は結果だけを聞きたいのだ。それに、あの男を誰が覚えるというのだ。一度すれ違っただけの人間を君は覚えているのか」
「私はともかく。一流の営業人であれば可能かと」
「あの場にいたのは軍人だけだ。頭の固いな」
吐き捨てるような言葉とともに、話は終わりとばかりに腕を振るった。
「決定はいつになる」
「……来月の頭となっております」
「あと数週間か。今更気づいたところで、何になる――自由惑星同盟など来月の戦勝パーティーの準備で大忙しだろう。ああ、そうだな、パーティーには十分な援助をしておけ。以上だ」
「は――わかりました」
静かに頭を下げれば、ウェインに手を振られ、女性はゆっくりと下がった。
そんな姿に、ウェインは書類を乱暴に机上に投げる。
心配性ばかりだなと。
石橋を叩くことも大切であろう――だが、企業ではいち早く橋を渡った者が勝つのだ。
二番目に渡ったところで、既に渡った先の富は独占されている。
それがわからない馬鹿ばかりだなと、ウェインは苦く笑った。
+ + +
「アロンソ中佐」
廊下を歩いていた時に、声をかけられて、アロンソは振り返った。
そこには見慣れた、過去の部下がいる。
優秀であり、軍人としても尊敬すべき――しかしながら、複雑な感情を感じる男だ。
それでも一切の表情を見せずに、返答をしたのはアロンソの性格によるところであろう。
「何かな」
「先日はありがとうございました。非常に楽しい時間を過ごさせていただきました」
「ああ。それは良かった」
と、言いながらも、感情を全て押し殺せずに、苦い表情を見せた。
もしかしたら娘を奪われるかもしれないと。
しかしながら、アレスの真剣な表情に、アロンソは表情を消した。
彼のそんな表情はわずかしかないが、戦闘前によく見たからだ。
眉根をよせて、睨むような表情。
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