240部分:第十七話 熱心に祈るあの男その四
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第十七話 熱心に祈るあの男その四
「陛下はエルザなのだからな」
「前も言っておられましたね」
一人がワーグナーのその話に気付いた。
「陛下はエルザだと」
「そうだ、言った」
まさにだ。その通りだと答えるワーグナーだった。
「私は実際にそう思っている」
「陛下は姫なのですか」
「女性なのですか」
「あの方が」
「外見の問題ではない」
王のその整った、絵画の世界から出て来た様な、そうしたあまりにも整った騎士と見まごうばかりのその外見ではないというのである。
では何か。王はさらに話した。
「御心なのだ」
「陛下の御心がなのですか」
「女性だと」
「あのブラバントの姫君なのですか」
「陛下が何故ローエングリンを愛されるか」
その作品世界全てを愛しているのだ。王にとってローエングリンとはまさに意中の作品であり運命の出会いに他ならないのである。
「そのことだ」
「陛下が女性だからこそ」
「ローエングリンを愛される」
「そして陛下をお救いできるのは」
「ローエングリンだけなのですか」
「陛下は同性愛者ではないのだ」
ワーグナーはこのことを否定した。尚彼は同性愛者ではない。
その同性愛者ではない彼の冷静な目はだ。王は同性愛者ではないとしていた。それは何故かもだ。彼は言うことができた。
そして今実際にだ。そのことを話したのだ。
「一途な姫なのだ」
「そうした意味でもエルザ姫なのですか」
「あの方はローエングリンではなくエルザ姫」
「そうだったのですか」
「では。あの方は」
「ローエングリンを求められ、その救いを待たれている」
それが王だというのだ。
「おそらく御自身も気付かれていないがだ」
「御心は女性であることに」
「そのことに」
「そうだ。御自身はローエングリンであると思われている」
これが問題なのだった。複雑なパラドックスである。
そのことを知るワーグナーはだ。今度はその旅について述べた。
「今その旅はいいことだ」
「陛下のその憂いに満ちたお心に」
「よいのですね」
「そうだ。私は願う」
純粋な願いだ。王に対する。
「あの方の何があろうとも清らかなままの御心が安らかになることを」
こう言うのであった。旅に出ている王に対して。そして王は。
この時列車の中にいた。フロックコート、青のそれを着た王は優雅に座席に座っている。その王の向かい側にホルニヒがいる。
そのホルニヒがだ。王に声をかけてきた。
「伯爵、宜しいでしょうか」
「どうしたのだ?」
仮の身分にだ。王は言葉を返した。
「間も無くフランスですが」
「そうだな。いよいよだな」
「何処に行かれますか、フランスの」
「宮殿がいい」
そこだとだ。王は答えた。
「ベルサイ
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