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永遠の謎
238部分:第十七話 熱心に祈るあの男その二

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第十七話 熱心に祈るあの男その二

「ダイアの如く美しいがガラスよりも脆い」
「それが陛下の御心」
「では。王としては」
「繊細に過ぎる。しかし王に相応しい方だ」
 この二つ、矛盾する二つこそがなのだった。
「あれ以上の王はおられない。そして王以外になることができない方なのだ」
「生まれついての王」
「そうであろうとも」
「そう、王になるべくしてなられた方だ」
 それが王だというのだ。
「しかしだ。それでもだ」
「繊細に過ぎる」
「それが王ですか」
「バイエルン王なのですね」
「その繊細さに気付けば」
 どうかとだ。ワーグナーは話す。
「接し方もわかるのだが」
「しかしそれでもですか」
「それがわかっていない」
「だからこそ今は」
「そうだ。陛下は憔悴されてきている」
 ワーグナーは王の側に立って話している。
「だから旅にもだ」
「行かれていますか」
「だからこそですか」
「そうだ。だからこそだ」
 それでだと。ワーグナーは見ていて話すのだった。
 その目に見ているのはだ。まさに王のその心だったのである。
「あの方は旅に出られたのだ」
「帰られるでしょうか、陛下は」
「その旅から」
「果たしてバイエルンに」
「帰られるでしょうか」
「それは間違いない」
 そのだ。王の帰還はだというのだ。
「だが。それでもだ」
「それでも?」
「それでもといいますと」
「あの方は完全には癒されない」
 王のその心はだ。どうしてもだというのだ。
「憔悴はそのまま蓄積されていくだろう」
「それを消し去るにはどうすればいいでしょうか」
「一体」
 ワーグナーの支持者達はそのことをワーグナーに問うた。
 彼等も王に対して敬意と愛情を抱いている。だからこそだ。
 こうしてだ。ワーグナーに対して問うのである。
「陛下のその憂いを消し去るには」
「どの様にすれば」
「一体どうすれば」
「芸術と。自然だ」
 その二つがだ。王にとっての癒しになるというのだ。
「その二つが陛下を救われるのだが」
「では現実は」
「それはどうなのでしょうか」
「現実は過度になると憂いになる」
 そうなるというのである。
「今実際にそうなっている様にだ」
「陛下にとっては」
「その現実がなのですか」
「陛下はバイエルン王だ」
 これがだ。現実の第一歩だった。王にとってはだ。
「だがそのバイエルンはだ。どうなろうとしているのか」
「プロイセンに飲み込まれようとしています」
「ドイツ帝国が築かれようとしていますが」
「その中心はプロイセンです」
「ですからバイエルンは」
「そうだ、それもまた陛下にとって憂いなのだ」
 それもだと。ワーグナーはさらに話す。

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