235部分:第十六話 新たな仕事へその十一
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第十六話 新たな仕事へその十一
その国を見てだ。さらに話すのだった。
「ドイツ皇帝を。皇帝にするのは誰だ」
「ドイツ皇帝をですか」
「プロテスタントのその皇帝をだ」
「皇帝にするのは」
「教皇様ではないのだ」
そのだ。ローマ教皇ではないというのだ。
ローマ教皇は神聖ローマ帝国皇帝にその帝冠を授けてきた。歴史的な誕生の経緯からだ。神聖ローマ帝国皇帝はカトリックの擁護者だったのだ。
しかしプロイセンは違う。プロテスタントだ。それならばカトリックのローマ教皇が冠を授けることはできない。それは宗教的、政治的な理由からだ。
「では誰だ」
「そうなると」
「私しかいないのだ」
王自身しかというのだ。
「プロイセンを除けば。第一の国であるバイエルンの王である私しかな」
「他の者にはですか」
「できない。ドイツの皇帝を決めるのはだ」
「では陛下は」
「プロイセン王をドイツ皇帝に推挙する」
そのことがまた述べられた。
「その役目が来るのだ」
「プロイセンとフランスの戦争の後で」
「私は。嫌だ」
王の言葉は暗鬱に満ちていた。
「その様なことはだ」
「どうしてもなのですね」
「それはバイエルンの誇りの放棄だ」
それに他ならないというのである。
「それをだ。自らするのはだ」
「できませんか」
「しかし時代は無慈悲だ」
それがわかっているからこそだ。余計にだというのだ。
「それはどうしてもだ」
「しなければならないのですね」
「そういうことだ。だからこそ私は」
「陛下は」
「私は勝手な男だ」
再び自嘲を見せたのであった。そうしての言葉だった。
「それから逃れようとしている」
「いえ、それは」
「その通りだ。私は逃げようとしているのだ」
そうしていると話す。そのうえでだ。
王はだ。さらにこう話したのだった。
「その。現実からだ」
「時代からですか」
「それが何処までも私を追おうとも」
現実に疎ましさを感じながらだ。そうして話すのだった。
「私は逃げたいのだ」
「では旅は」
「その為のものだ。では私はだ」
「フランスにですね」
「人は。逃れては駄目なのか」
それはホルニヒではなく。世界への問いだった。
「己を苛むものに」
「時と場合によるのではないでしょうか」
「時と場合によってはか」
「避けることを決めるのにもです」
「それについてもか」
「はい、決断が必要ですから」
それでだというのである。
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