56話:前線総司令部
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「爵位が何だというのだ!クラリベルだけでなく俺から事業まで奪うとは。なにか門閥貴族だ。人の皮を被った強欲の塊どもめ......」
いつものように、父が門閥貴族への恨みをつぶやきながら、お酒を煽っている。止めなければと思うが、正直、どう話せばいいのかわからない。私も母の死のショックからまだ立ち直った訳ではないのに。
「姉さん......。どうしたの?」
「何でもないわ。ラインハルト、寝室に戻りましょう」
弟の手を引いて、寝室に戻る。どうやら父の声が大きかったらしく、目を覚ましてしまったみたい。弟のラインハルトはまだ5歳。母が死んだという事を認識するにはまだ幼かった。それだけが救いでもある。父と母の結婚は貴族社会ではめずらしい恋愛結婚だった。父が見初めて、色々な横槍があったらしいがなんとか結婚することができた。そのせいか、母の事故死に父は大きなショックを受けて、ふさぎ込む状況だった。
その上で、詳しくは聞かされていないが、事故を起こした門閥貴族が、賠償金を請求されたことを逆恨みして父の事業を立ち行かなくした。そこで父の気持ちは折れてしまったのだと思う。夕方からお酒を飲みだしてダイニングでそのまま寝入ってしまうようになり、最近ではお昼から飲み始めて恨み言をつぶやくようになった。母が健在な頃は、私の中では良き父だった。お酒におぼれる姿を見たくはないし、ラインハルトにも見せたくない。
「姉さん、なんだか悲しそうだけど、どうしたの?」
寝入るまでは頭を撫でるのが私たちの習慣だが、思っていたことが顔に出ていたみたい。弟には心配をかけたくない......。
「何でもないわ。ラインハルト、それより明日は晴れて良い一日になりそうよ。早く休んで明日に備えなきゃね......」
「うん。おやすみなさい......」
寝入った様子の弟の頭をしばらく撫でる。今、この子を守れるのは私だけだ。父もいつかは立ち直ってくれるはず。今は私がしっかりしなければ......。弟が寝入ったのを確認してから、自分の部屋に戻った。明日は今日より良い一日でありますように。
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