228部分:第十六話 新たな仕事へその四
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第十六話 新たな仕事へその四
「ですから。それは」
「しないというのだな」
「はい」
そうだとだ。ホルニヒは言うのだった。
「帰られてから。その仕事をされますね」
「私は王だ」
そのことは自身が最も意識していることだった。王であるだけにだ。彼は自身が王であることを誰よりも強く意識しているのだ。
それがあるからだ。今こう言うのだった。
「王は己の責務から逃れられない」
「決してですね」
「バイエルンを護らなければならないのだ」
こう話すのだった。
「国も。臣民達も」
「その全てを」
「そうだ。だが」
ここからだ。本心、普段は出さないそれを出した。
「私も一人でいたい時があるのだ」
「だからですね」
「今は馬に乗りたい」
そしてであった。
「泳ぎたいのだ」
「自然の中で」
「自然はいい」
王は憧憬を見せた。その自然に対して。
「全てを癒してくれる」
「それでなのですが」
ホルニヒからの提案であった。
「陛下、一度です」
「一度。何だ」
「戦争が終わりましたし」
「仕事が減ったからだな」
「そうです。何処かに旅をされてはどうでしょうか」
一人になりたいと言った王に対してだ。こう提案したのである。
「そうされては」
「だが。私が旅をすれば」
王はその提案に暗い顔を見せた。
「必ず誰かが見る」
「では」
「旅は好きだ。しかしだ」
青い目にも暗いものを帯びさせる。すると不思議なことにその目の色がグレーに見える。色が変わってしまったかの如くに。
「そこに人の目があれば」
「お嫌ですか」
「そうだな。ここは」
ホルニヒの言葉を受けながらだ。話した。
「私でなくなろうか」
「陛下ではなくですか」
「偽の名を使う」
そうするというのだった。
「ここはだ。そうしよう」
「それで旅をされるというのですね」
「そうしよう。そしてだ」
「そして?」
「そなたも来るのだ」
ホルニヒに対してだ。誘いの声をかけたのだった。
「ホルニヒ、そなたもな」
「私もですか」
「私は勝手な男だ」
自嘲だった。自分に対する。
「一人でいたいのにだ。それでいて誰かにいて欲しいのだ」
「だからなのですね」
「だからだ。来てくれ」
また告げる王だった。
「私のその旅にだ」
「宜しいのですか?」
ホルニヒは王の顔を見た。その目の瞳は今はグレーではなかった。澄んだ湖の色に戻ってだ。そのうえで彼を見ているのだった。
「私が同行して」
「何度も言うが私は勝手な男だ」
またこう言う王だった。
「だからだ。いいか」
「陛下のお心がそれで癒されるなら」
これがホルニヒの言葉だった。彼は言ったのであった。
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