第十三話 青と赤と黒とその七
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「恐ろしいことじゃ」
「左様ですな」
「それでじゃ」
「殿にしましても」
「あ奴がいてくれてじゃ」
それだけでというのだ。
「有り難いわ」
「では」
「後詰しかも頼もしい、では犬山はな」
そこを軸とする美濃の東、そこに話を戻した。
「帰蝶に行ってもらう」
「はい、それでは」
その帰蝶も応えた、そしてだった。
帰蝶は馬に乗り軍勢を率いて犬山城に向かった、信長はその彼女を見送ってから岐阜城から尾張から三河に向かうことにした。
その途中でだ、彼は武田家が浜松城の前を通ったと聞いて言った。
「まずいのう」
「はい、これではです」
小寺あらため黒田が言ってきた。
「徳川殿はです」
「挑発であるがな」
「それに乗ってしまい」
「軍勢を率いて城を出るわ」
「そしてそのうえで」
「然るべきに武田の軍勢に戦を挑まれるが」
「おそらくその場は」
黒田はその目の光を強くさせて述べた。
「三方ヶ原かと」
「確かあの地はな」
「坂道でして」
「武田はその頂上からか」
「はい、そこから追って来る徳川殿の軍勢を」
「攻めるか」
「高い場所から低い場所に」
そうしてくるというのだ。
「そしてそう攻められますと」
「武田の五万の軍勢にな」
「二十四将と真田源次郎殿がおられる」
幸村、彼もというのだ。
「その軍勢に攻められますので」
「そうなってはな」
「如何に徳川殿といえど」
徳川家の軍勢も強い、だがそれでもというのだ。
「相手も戦の場もです」
「悪過ぎるな」
「そうなってしまいますので」
それでというのだ。
「徳川殿は惨敗します」
「間違いなくな」
「そうなります、何とかです」
「竹千代は助けねばな」
「お命も危ういかと」
このままではというのだ。
「ですから飛騨者達を行かせたことは」
「よいことじゃな」
「はい、まさに」
「そうじゃな、それではな」
「我等も急ぎましょう」
「武田信玄は智も勇も備えておる」
それが信玄だというのだ。
「まさに天下の名将、如何に竹千代でもじゃ」
「術中にかかり」
「そしてじゃ」
そのうえでというのだ。
「武田の有利な戦にじゃ」
「誘い出されてしまいますな」
「間違いなくな、三河武士達も多く死ぬわ」
家康に絶対の忠義を誓っている彼等もというのだ。
「あ奴、あれで頭に血が上るところがある」
「そうは見えぬのですが」
「子供の頃そうだったのじゃ」
幼い頃の付き合いからの言葉だった。
「慎重で用心深い者じゃが」
「それでもですな」
「頭に血が上るところもあるからじゃ」
「それで、ですか」
「武田の誘いにも乗る」
浜松城の前を悠然と通り過ぎてみせたそれにというのだ。
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