スキルド
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の気持ちなど知りもせず、彼は謝り続けていた。
「もう気にしないで、スキルド」
私はできるだけ優しく穏やかに、彼に告げた。
「だって、魔王領に連れてこられたおかげで、こんなに強くなれたんだよ? 私」
兄さんとだって戦えるんだから、と笑いかけた。
「そんな、どうして……どうしてそうなっちまったんだ!」
彼は肩と腕を震わせて、心底無念そうに呟いた。
「チェント。ヴィレントはな、あいつはあいつで……気の毒なやつなんだよ」
スキルドは意外なことを言った。
兄が気の毒? よくわからないことを言う。
あなたは何を知っているの?
「あいつはお前を殴ってしまったその日から、ずっと母親の影に攻められ続けているんだ」
母さんの……影?
「ヴィレントから聞いたんだ。あいつは母親の死に際にチェント、お前を必ず守るように頼まれたと言っていた」
母さんが私を守るように……?
「でも、あいつはそれを守れなくて、自分で妹を傷つけてしまって。それ以来あいつは、お前を見るたびに母親の幻影が重なるようになってしまったんだ」
兄さんがそんな話を……。
父さんと母さんが殺されたあの日、森の中から1人戻ってきた兄。
おそらく、あの時に兄は母の最期を看取ってきたのだろう。泣き腫らした顔で戻ってきた兄。死の直前に母と話せたのはその時しかない。
両親が生きていた頃、兄は母にいつも甘えていた。
「母さん、母さん!」
「もう、ヴィレントはいつまでも甘えん坊なんだから」
べったりしがみ付いた兄の頭を撫でる母の姿。母もそんな兄を溺愛していた。
そんな最愛の母の遺した最期の言葉は、兄にとって何より重いものだったのだろう。
だからあの時、森から戻った兄はあれを言ったのだ。
兄が私に言った言葉──
「母さんたちはもういないけど、もういないから……。これからは……」
──これからは俺がお前を守ってやる。必ず守ってやるから! だから、泣くなチェント──
思い出した。
確かに兄は、あの時私を守ると言ったのだ。
母の遺言が、兄のその誓いを引き出した。あの後、しばらくは私も兄を慕う気持ちがあったはずだった。
だがそれから1年が経ち、兄は自らその誓いを破ってしまった。守ると誓った私を自らで傷つけてしまった。
それ以来、母の言葉が兄を攻め続けているというのだろうか?
なるほど、兄がどれだけ私を疎ましく思っても、放り出しきれなかった理由がなんとなくわかった。
しかし、その話を聞いても、兄に同情する気にはなれなかった。要するに兄が勝手に私を殴って、勝手に苦しんでいるだけだ。
殴られ続けた私の方が、ずっと苦しかったはずだ。
「スキルド。そんな話で私が納得できるわけないじゃない。そんな話で……兄さんを許せるわけないじゃない!」
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